DS2711/12を用いた1次電池の検出
要約
(1セル/2セルの単3/単4ニッケル水素(NiMH)「ルース」セル用に設計された) DS2711およびDS2712ルースセルニッケル水素チャージャは、アルカリ1次電池を検出し、その電池の充電を防止します。このアプリケーションノートでは、様々な製造業者の使用済みと新品のセルの特性を明らかにして、チャージャICが再充電可能なニッケル水素セルとアルカリ1次電池を区別する方法を示します。
はじめに
DS2711とDS2712ルースセルニッケル水素チャージャは、1セル/2セルの単3/単4ニッケル水素「ルース」セルを充電するための最適なソリューションを提供します。DS2711とDS2712は、アルカリ1次電池を検出して、その電池の充電を防止することが可能です(アルカリ1次電池の製造業者は、アルカリ1次電池の充電を推奨しないので、チャージャが安全に充電することができるセルとそうでないセルを区別できることが重要になります)。
このアプリケーションノートでは、再充電可能なニッケル水素セルとアルカリ1次電池を区別するDS2711とDS2712の機能を実証するデータを示します。また、様々な製造業者の使用済みと新品のセルの特性を明らかにします。
セルの準備
新品および使用済みの再充電可能なニッケル水素セルとアルカリ1次電池を用意しました。それぞれのセルをDS2711に接続し、これによってバッテリの化学的性質、およびセルを充電すべきかどうかを識別しました。
単3/単4のニッケル水素セルは、マクセル、パナソニック、Rayovac、サンヨー、およびソニーのセルを選択しました。また1次電池は、Duracell Ultra、Rayovac Maximum Plus、Energizer Max、Energizer e² Lithium、およびEnergizer e² Titaniumを選択しました。使用済みのセルは、最長1年経過しており、充電と放電のサイクルを十分に繰り返しています。
すべてのニッケル水素セルは、DS2711を使用して充電した後、目標の充電状態まで放電しました。アルカリ電池は新品で、パッケージから取り出した後、目標充電状態まで放電しました。
セルのインピーダンスは、残存容量もしくは充電状態によって異なります。このアプリケーションノートでは、フル(Full)、低(Low)、空(Empty)、および消耗(Depleted)という4つの充電状態を選択しました。
「フル」は、ニッケル水素セルがDS2711によって完全に充電されたことを示します。アルカリ電池の場合、「フル」はアルカリ電池が「パッケージから出された」状態のままであることを示します。「低」は、セルが50mAの負荷で1.2Vまで放電されたことを示します。「空」は、セルが50mAの負荷で0.8Vまで放電されたことを示します。「消耗」は、セルが50mAの負荷で0.0Vまで放電されたことを示します。
インピーダンスデータ
セルが目標の充電状態まで放電された後、各セルのインピーダンスを計算するために測定を行いました。この測定では、最初に各セルの開回路電圧 (VOFF) を測定し、次にセルに500mAの充電電流をセルに加えて、0.5秒後の電圧 (VON) を測定しました。インピーダンスは次のオームの法則を用いて計算しました。
表1は、それぞれの充電状態ごとに計算したすべての単3セルのインピーダンスを示しています。表2は、同様にすべての単4セルのインピーダンスを示しています。
表1. 充電状態ごとに計算した様々な単3セルのインピーダンス
Charge States Impedance (mΩ) | |||||
Cell Type | Cell Brand | Full | Low | Empty | Depleted |
Alkaline - AA | Duracell Ultra | 181 | 451 | 910 | 671 |
Rayovac Maximum Plus | 248 | 761 | 1282 | 462 | |
Energizer Max | 140 | 912 | 1080 | 524 | |
Energizer e² Lithium | 159 | 174 | 272 | 850 | |
Energizer e² Titanium | 186 | 436 | 486 | 444 | |
New NiMH - AA | Panasonic (1950 mAh) | 42 | 52 | 60 | 448 |
Rayovac (2000 mAh) | 40 | 48 | 64 | 638 | |
Sanyo (1600mAh) | 34 | 54 | 206 | 982 | |
Aged NiMH - AA | Maxell (2000 mAh) | 58 | 285 | 555 | 629 |
Rayovac (1800 mAh) | 45 | 55 | 187 | 391 | |
Sanyo (2000 mAh) | 81 | 83 | 131 | 812 | |
Sony (2000 mAh) | 57 | 116 | 551 | 1420 |
表2. 充電状態ごとに計算した様々な単4セルのインピーダンス
Charge States Impedance (mΩ) | |||||
Cell Type | Cell Brand | Full | Low | Empty | Depleted |
Alkaline - AAA | Duracell Ultra | 282 | 602 | 1035 | 1640 |
Rayovac Maximum Plus | 322 | 883 | 1114 | 1892 | |
Energizer Max | 253 | 367 | 525 | 1071 | |
Energizer e² Lithium | 222 | 253 | 523 | 834 | |
Energizer e² Titanium | 192 | 442 | 268 | 455 | |
New NiMH - AAA | Rayovac (800 mAh) | 100 | 106 | 152 | 353 |
Sanyo (700 mAh) | 98 | 128 | 128 | 844 | |
Panasonic (750 mAh) | 100 | 72 | 142 | 147 | |
Aged NiMH - AAA | Rayovac (700 mAh) | 54 | 168 | 144 | 357 |
Sanyo (700 mAh) | 106 | 154 | 507 | 819 | |
Sony (700 mAh) | 62 | 64 | 396 | 712 |
充電結果
セルインピーダンステストのスレッショルド(CTST)は、CTST抵抗器 (RCTST)の値によって設定されます。RCTSTの値は、目標のインピーダンススレッショルドと充電電流に基づいたものです。インピーダンスデータから、単3と単4のどちらについても、160mΩのスレッショルドを使えば、新品と使用済みの再充電可能なニッケル水素セルがセルインピーダンステストに合格して、アルカリ電池がそのテストに不合格となることが判明しました。RCTSTは、次の方程式を使用して求めることができます。
このアプリケーションノートでは、500mAの充電電流に100kΩのRCTSTを使用し、1Aの充電電流に50kΩのRCTSTを使用しました。
表3は、結果の表4-7に記載されている略語の凡例を示します。「NC」は、VOCが1.75Vより大きいためにセルが充電されなかったことを示します。1.75Vは、DS2711がプレゼンステストでバッテリの挿入を検出するための限界値です。「PC」は、VOCが1.0V未満であり、予備充電状態にデバイスが移行して、高速充電電流の4分の1の減速レートでセルを充電していることを示します。セルのVOCが34分後に1.0V以上に回復しない場合、DS2711はFAULTに移行します。「CTST」は、セルがセルインピーダンステストに不合格になり、このためDS2711がFAULTに移行したことを示します。セルインピーダンステストは、31秒ごとに1回実行しています。「OV」は、VCH (充電電流が加えられたセル電圧)が1.75Vより大きく、その結果DS2711がFAULTに移行したことを示します。過電圧テストは、充電中に1秒毎に実行されます。「Ch」は、セルがDS2711によって充電されたことを示します。
結果の表に記載されている追加情報は、DS2711が充電開始からFAULTに移行するまでの時間です。時間は、「XXs」(秒)または「XXm」(分)のいずれか適切な表記を用いて示されています。また、「X RS」は完全充電が可能となる前に充電が再開された回数を示します。完全に放電したニッケル水素セルの場合、DS2711は最初にインピーダンスが高すぎると検出する場合があります。ただし、1~2回試行した後、インピーダンスはセルインピーダンステストに合格し、適切に充電する値まで回復します。
表3. 結果の表4-7の凡例
Abbreviation | Meaning |
NC | No Charge |
PC | Pre-charge |
CTST | Fail Impedance Test |
OV | Fail Over Voltage Test |
Ch | Charged OK |
(XXs) | Seconds until FAULT |
(XXm) | Minutes until FAULT |
(X RS) | Times Charge was restarted |
表4と表5は、並列充電モードで構成されたDS2711評価ボードに単3/単4セルをそれぞれ配置し、500mAの充電電流を供給するよう設定した外部の充電源を使用した場合の結果を示しています。表6と表7は、1Aの充電電流に設定した場合の同様なデータを示しています。
表4. 500mAの充電電流で単3セルを充電した結果
Charge StatesCharge Results for 500mA Current | |||||
Cell Type | Cell Brand | Full | Low | Empty | Depleted |
Alkaline - AA | Duracell Ultra | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | PC (34m) |
Rayovac Maximum Plus | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | |
Energizer Max | OV (155s) | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | |
Energizer e² Lithium | NC | OV (295m) | CTST (25m) | PC (34m) | |
Energizer e² Titanium | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | |
New NiMH - AA | Panasonic (1950 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
Rayovac (2000 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch (1 RS) | |
Sanyo (1600mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch (2 RS) | |
Aged NiMH - AA | Maxell (2000 mAh) | Ch | Ch | Ch (1 RS) | Ch (2 RS) |
Rayovac (1800 mAh) | Ch | Ch | Ch (1 RS) | Ch (1 RS) | |
Sanyo (2000 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch (1 RS) | |
Sanyo (2000 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
表5. 500mAの充電電流で単4セルを充電した結果
Charge StatesCharge Results for 500mA Current | |||||
Cell Type | Cell Brand | Full | Low | Empty | Depleted |
Alkaline - AAA | Duracell Ultra | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) |
Rayovac Maximum Plus | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | |
Energizer Max | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | |
Energizer e² Lithium | NC | CTST (20m) | PC (34m) | PC (34m) | |
Energizer e² Titanium | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | |
New NiMH - AAA | Rayovac (800 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
Sanyo (700 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch (1 RS) | |
Panasonic (750 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch (1 RS) | |
Aged NiMH - AAA | Rayovac (700 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
Sanyo (700 mAh) | Ch | Ch | Ch (1 RS) | Ch (1 RS) | |
Sony (700 mAh) | Ch | Ch | Ch (1 RS) | Ch (1 RS) |
表6. 1Aの充電電流で単3セルを充電した結果
Charge StatesCharge Results for 1A Current | |||||
Cell Type | Cell Brand | Full | Low | Empty | Depleted |
Alkaline - AA | Duracell Ultra | OV (7s) | OV (7s) | OV (3s) | CTST (31s) |
Rayovac Maximum Plus | OV (3s) | OV (3s) | OV (2s) | OV (22s) | |
Energizer Max | OV (11s) | OV (3s) | OV (3s) | OV (3s) | |
Energizer e² Lithium | NC | OV (237m) | CTST (400s) | OV (2s) | |
Energizer e² Titanium | OV (14s) | CTST (31s) | CTST (31s) | CTST (31s) | |
New NiMH - AA | Panasonic (1950 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
Rayovac (2000 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch | |
Sanyo (1600mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch | |
Aged NiMH - AA | Maxell (2000 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
Rayovac (1800 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch | |
Sanyo (2000 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch | |
Sony (2000 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
表7. 1Aの充電電流で単4セルを充電した結果
Charge StatesCharge Results for 1A Current | |||||
Cell Type | Cell Brand | Full | Low | Empty | Depleted |
Alkaline - AAA | Duracell Ultra | OV (3s) | OV (3s) | OV (3s) | OV (2s) |
Rayovac Maximum Plus | OV (2s) | OV (3s) | OV (3s) | OV (3s) | |
Energizer Max | OV (2s) | OV (21s) | OV (2s) | OV (2s) | |
Energizer e² Lithium | NC | CTST (32m) | PC (34m) | PC (34m) | |
Energizer e² Titanium | OV (2s) | OV (10s) | CTST (31s) | CTST (31s) | |
New NiMH - AAA | Rayovac (800 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
Sanyo (700 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch | |
Panasonic (750 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch | |
Aged NiMH - AAA | Rayovac (700 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
Sanyo (700 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch | |
Sony (700 mAh) | Ch | Ch | Ch | Ch |
まとめ
結果の表(表4~7)は、DS2711とDS2712がアルカリ1次電池を検出して、その電池の充電を防止することができることを示しています。500mAの充電レートでは、ほとんどのアルカリ電池は、31秒間充電した後、セルインピーダンステストに不合格となったため充電を中止しました。より高い1Aの充電レートでは、ほとんどのアルカリ1次電池は、充電開始から10秒以内に過電圧テストに不合格となり、同じく充電を中止しました。
唯一すぐに検出されなかった1次電池は、Energizer e² Lithiumセルです。Energizer e² Lithiumセルは、1次電池としてはインピーダンスの値が非常に低いため、このセルの検出をより難しくしています。新品のセルの開回路電圧(VOC)は約1.8Vで、プレゼンステストに不合格となるので、簡単にそのセルの充電を防止することができます。消耗充電状態の単3/単4セル(および、空充電状態の単4セル)のVOCは1.0V未満で、これらのセルは、34分の予備充電期間中、減速レートの予備充電状態に留まり、その後セルに対して目立った影響を及ぼすことなく充電が終了します
低充電状態の単3/単4のEnergizer e² Lithiumセル(および、空充電状態の単3セル)は、DS2711によって充電されたセルですが、漏れや破裂の兆候を示しませんでした。唯一目立った影響は、充電が終了する前に、室温より約10℃高い温度までセルが加熱されたことです。すべての1次電池の場合と同様、製造業者は充電を推奨していません。
Energizer e² Lithiumセルを充電した後、最初の充電状態まで放電し、すぐにその充電状態に達しました。これは、充電電流がセルの実際の容量にほとんど変換されなかったということです。
一部の空または消耗状態の再充電可能なニッケル水素セルでは、インピーダンスが回復してセルインピーダンステストに合格するまで1~2回の充電の再開が必要でした。この充電再開は、1Aの充電レートではなく500mAの充電レートで行いました。その理由は、1Aの充電によって十分な容量がセルに供給され、最初の31秒間でセルインピーダンスのスレッショルド未満にインピーダンスを減らすことができるからです。500mAで充電すると、受け入れ可能なインピーダンスレベルにセルが回復するまでに2倍の時間がかかります。
このアプリケーションノートに記載したデータは、DS2711およびDS2712が、1次電池の製造業者が推奨するとおり、実際にアルカリ1次電池を検出してその電池の充電を防止することができることと再充電可能なニッケル水素セルは正しく充電することができることを実証しています。