静止電流2.5μA、超低EMI放射、42V、2A/3Aピークの同期整流式降圧レギュレータ

はじめに

LT8609、LT8609A、LT8609B、およびLT8609Sは同期整流式モノリシック降圧レギュレータで、3V~42Vという広い入力範囲を特長とします。このデバイス・ファミリは、低EMI、高効率、小型のソリューションが必要とされるアプリケーション用に最適化されており、要求の厳しい自動車用、工業用、計算用、通信用などのソリューションに適しています。このシリーズのレギュレータはすべて同じ負荷電流容量を備えており、その値は連続2A、過渡3A(1秒未満)です。これらの製品の特長を表1に示します。

部品 パッケージ 性能 動作モード
LT8609 10ピンMSE 高効率 バースト・モード動作、パルス・スキッピング・モード、拡散スペクトラム・モード、同期モード
LT8609A 10ピンMSE 効率およびEMI性能の両方に合わせて最適化 バースト・モード動作、パルス・スキッピング・モード、拡散スペクトラム・モード、同期モード
LT8609B 10ピンMSE 高効率 パルス・スキッピング・モード
LT8609S 16ピンLQFN 最良の効率とEMI性能をSilentSwitcher 2技術と統合 バースト・モード動作、パルス・スキッピング・モード、拡散スペクトラム・モード、同期モード

LT8609、LT8609A、LT8609Sには静止電流が2.5µAと極めて小さいという特長があり、これはバッテリ駆動システムでは重要な要素です。これらのレギュレータは、内蔵のトップおよびボトムNチャンネルMOSFETによって、軽負荷時に非常に優れた効率を発揮します。LT8609Bはパルス・スキッピング・モードのみで動作し、他のデバイスより静止電流は大きくなりますが、軽負荷動作時のリップルが小さくなっています。

これらのデバイスはすべて、自動車機器用の最も厳しいEMI標準であるCISPR 25クラス5の放射EMI規則を満たしています。更に、EMIピークを減らすための拡散スペクトラム周波数動作を特長とします。LT8609Sは、Silent Switcher® 2という独自技術に基づき、このファミリ中最も優れたEMI性能を発揮します。

5.5V~42V入力、低EMI、高効率の5V/2A電源

5.5V~42V入力で5V/2Aの出力を発生する電源を図1に示します。このソリューションには、スイッチング周波数2MHz、16ピンのLT8609Sレギュレータが使われています。ソリューションを完成させるのに必要な部品は、インダクタL1やいくつかの受動部品など、ほんのわずかです。図2は、このソリューションが92.9%のピーク効率を実現できることを示しています。

図1. 超低EMI放出、12V入力、5V出力の同期整流式降圧コンバータLT8609S

図1. 超低EMI放出、12V入力、5V出力の同期整流式降圧コンバータLT8609S

図2. LT8609/LT8609A/LT8609Sをベースとする12 VIN 5 VOUT降圧コンバータの効率と負荷電流の関係

図2. LT8609/LT8609A/LT8609Sをベースとする12 VIN 5 VOUT降圧コンバータの効率と負荷電流の関係

軽負荷状態での効率を改善するバースト・モード動作

バッテリ駆動のアプリケーションでは、軽負荷動作時および無負荷スタンバイ・モード時の効率が高く、アイドル電流が小さいことが重要です。LT8609、LT8609A、LT8609Sは、バースト・モード(Burst Mode®)動作時の静止電流が2.5µAと低いのが特長です。軽負荷状態時と無負荷状態時は、スイッチング周波数が徐々に低下して、出力電圧リップルを比較的低い値に保ったまま、電力損失を大幅に減少させます。図2は、軽負荷時効率が85%以上に保たれている一方で、最小負荷時には電力損失がゼロに近いことを示しています。

高いスイッチング周波数、超低EMI放射、改善された熱性能

電磁両立性は、自動車システムを含む多くの環境における課題の1つです。このファミリのすべてのデバイスは、内蔵MOSFET、先進的なプロセス技術、そして最大2.2MHzの動作によって、最も厳格なEMI基準を満たしながら、小型のソリューション・サイズを実現しています。EMIピークを減少させる拡散スペクトラム周波数動作は、LT8609Bを除くすべてのデバイスで可能です。更に、LT8609SはSilent Switcher 2技術を採用しています。Silent Switcher 2デバイスは、EMI性能が基板のレイアウトや層数に影響されないようにするために、ホット・ループとウォーム・ループにコンデンサが組み込まれていることを特長とします。層数の少ない基板を使用すれば、EMI性能や熱性能を損なうことなく、製造コストを下げることができます。

図2は、LT8609Sがこのデバイス・ファミリで最も良好なピーク特性と全負荷時効率を備えていることを示しています。図3と図4は、図1のソリューションを2層基板と4層基板で実装した場合のCISPR 25 EMI性能と熱性能を比較したものです。

図3. 図1に示す回路の2層基板実装と4層基板実装におけるCISPR 25放射EMI性能の比較

図3. 図1に示す回路の2層基板実装と4層基板実装におけるCISPR 25放射EMI性能の比較

図4. 図1に示す回路の2層基板実装と4層基板実装の熱性能比較

図4. 図1に示す回路の2層基板実装と4層基板実装の熱性能比較

まとめ

LT8609ファミリのデバイスは、パワーMOSFETと補償回路を内蔵した容易に導入可能なモノリシック降圧レギュレータで、広い入力電圧範囲と低EMIノイズが求められるアプリケーション用に最適化されています。わずか2.5 µAという小さい静止電流とバースト・モード動作によって、これらの製品はバッテリ駆動の降圧コンバータ・ソリューションに最適なデバイスとなっています。200kHz~2.2MHzのスイッチング周波数範囲は、ほとんどのロー・パワー・アプリケーションやマイクロパワー・アプリケーションに適しています。また、内蔵MOSFETと最大2.2MHzのスイッチング周波数によって、ソリューションのサイズが最小限に抑えられます。CISPR 25のスキャン結果は、最も厳しいEMI規格の要求に適合する優れた放射EMI性能であることを示しています。また、LT8609Sに使われているSilent Switcher 2技術は、レイアウトや基板層数の違いによる影響を著しく緩和するので、開発や製造に要するコストを大幅に削減します。

著者

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Dong Wang

アナログ・デバイセズのパワー製品のアプリケーション・マネージャ。2013年リニアテクノロジー(現アナログ・デバイセズ)入社。現在は非絶縁モノリシック降圧コンバータのアプリケーション・サポートを担当。高周波数電力変換、分散型電源システム、力率補正手法、低電圧、大電流変換技術、高周波磁気統合、コンバータのモデリングと制御などを含め、パワー・マネージメント・ソリューションとアナログ回路に幅広い関心を持つ。中国杭州市の浙江大学を卒業し、同大で電気工学の博士号を取得。