パススルー機能付き4スイッチ昇降圧コントローラによるスイッチング・ノイズ除去
はじめに
DC/DCコンバータでは一般に、入力電圧が出力電圧より大きい、小さい、あるいは等しい場合でも、一定の電圧を生成しなければならないことが問題となります。つまり、コンバータは昇圧機能と降圧機能の両方を備えていなければなりません。この代表的な例が公称12Vのバッテリから車載用電子機器に電源を供給する場合です。すなわち、エンジンのコールド・クランク(最小3V)からロード・ダンプ状態(最大100V)、また作業者のミスによるバッテリの逆接状態まで、電圧は様々に変化します。昇圧と降圧の両方を実行できるDC/DCコンバータ・トポロジは、SEPICから4スイッチ・トポロジまで複数ありますが、これらのソリューションの中で、能動的にスイッチングを行うことなく、入力電圧を直接出力に渡すものはありません(これまでのところ、ですが)。
LT8210はパススルー(Pass-Thru™)モードで動作可能な同期整流式昇降圧コントローラで、EMIとスイッチング損失をなくして最大限の効率を実現します(最大99.9%)。パススルー動作では、入力電圧がユーザの設定するウィンドウの範囲内にあれば、入力がそのまま出力されます。LT8210は2.8V~100Vの入力電圧範囲で動作し、コールド・クランク時の最小入力電圧から抑制なしのロード・ダンプ時のピーク振幅までの範囲で、出力電圧を一定に維持します。LT8210は従来型の昇降圧コントローラとして動作させることができ、連続導通モード(CCM)、パルス・スキップ・モード、またはBurst Mode®の動作をピンで選択することができます。あるいは、 設定されたウィンドウ内に出力電圧を維持する新しいパススルー・モードを選択することもできます。入力電圧がこのウィンドウ内にあれば、FETを能動的にスイッチングすることなく、その電圧が直接出力されるので、動作時のIQが極めて小さい値に抑えられ、スイッチング・ノイズもなくなります。
パススルー動作モード
出力を8V~16Vの間に調整するパススルー動作用に構成されたLT8210の簡略化回路図を図1に示します。パススルー・ウィンドウの上限電圧は抵抗分圧器FB2によって、下限電圧はFB1によって設定されます。
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図1 LT8210の8V~16Vパススルー・レギュレータ回路
この回路の入出力伝達特性を図2に示します。入力電圧がパススルー・ウィンドウの上限値を超えると、LT8210はこれを降圧して16V出力に調整します。逆に入力電圧がウィンドウの下限値未満になると、LT8210はこれを昇圧して出力を8Vに維持します。入力電圧がパススルー・ウィンドウ内にある場合は、上側のスイッチAとDがオンのままになり、出力が入力に追従するようにします。デバイスは低消費電力状態になって、VINピンの静止電流は4μA(代表値)、VINPピンの静止電流は18μA(代表値)となります。この非スイッチング状態ではEMIもスイッチング損失も発生せず、99.9%以上の効率が実現されます。
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図2 パススルー動作は、パススルー入力電圧ウィンドウ内で99.9%の効率を実現します。
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図3 LT8210はパススルー・モード時、80Vの未抑制ロード・ダンプ・パルスに迅速に反応して、出力を最大設定値の16Vに制限します。
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図4 パススルー・モードのLT8210は、8Vの設定最小出力電圧まで昇圧を行うことによって、コールド・クランク・パルス(<4V)に対応します。
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図5 連続導通モードの効率に比べ、パススルー領域の効率はほぼ100%に達します。
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図6 LT8210の特長はパススルー領域での静止電流が極めて小さいことです。
まとめ
自動車用バッテリや、これと同様に電圧範囲が広い電源は、DC/DCコンバータの設計者にとって複雑な問題であり、保護機能と高効率の昇降圧変換が必要となります。LT8210同期整流式昇降圧コントローラは、保護機能と広い入力範囲の昇降圧コンバータやユニークなパススルー・オプションを組み合わせることによって、複雑さを解消します。このデバイスは2.8V~100Vの範囲で動作し、逆電圧保護機能を備えています。そのパススルー・モードはスイッチング損失とノイズをなくし、極めて小さい静止電流を実現します。パススルー・モードでは、出力電圧には従来の意味でのレギュレーションは行われませんが、ユーザ設定可能な電圧ウィンドウ内に収められます。