1-Wire®拡張ネットワーク規格
要約
1989年に規定された1-Wire規格が、ノイズが多く長いラインの1-Wireネットワークに対応するようにアップグレードされました。このアプリケーションノートでは新しい規格の拡張について説明し、規格および新デバイスで動作する1-Wireマスタの構築方法を紹介します。
はじめに
1-Wireバスは、単一の電気接続で双方向通信を行う簡易な信号処理方式です。どの1-Wireシステムにおいても、単一マスタと、共通のデータラインを共用する1個または複数のデバイスがあります。ダラスセミコンダクタは、ポータブルデータ伝送モジュールとの接続を低減する1-Wire規格を1989年に策定しました。この成果は、世界中で1億3000万個以上販売された16mmのバッテリ形状モジュールのiButtons®の発明でした。また、1-Wire方式は、チップベースのタグ付けや長いラインのセンサアプリケーションなどのその他のアプリケーションも可能にしました。ただし、当初の1-Wireフロントエンドは、これらの新アプリケーションの一部のノイズレベルやライン特性(ライン長など)を予想していませんでした。これらの新アプリケーションのニーズを満たすことで、しばしば現場での1-Wireの実装が試されました。このため、これらのアプリケーションに対応するために、1-Wire拡張ネットワーク規格(1-Wire Extended Network Standard)と呼ばれる新しい1-Wireフロントエンドが開発され、複数の新デバイスに実装されました。表1は1-Wireデバイスを一覧表示し、新しい拡張規格でサポートされるデバイスを示しています。
新拡張規格の重要な機能
各種ソースからのノイズによって、1-Wireライン上に信号グリッチが発生する場合があります。ノイズは、ネットワークのエンドポイントや分岐ポイントからの反射から発生する場合もあります(詳細について、アプリケーションノート148 「高信頼性長距離配線1-Wire®ネットワークのガイドライン」を参照してください)。また、ノイズは外部ソースからも発生し、1-Wire信号に結合される場合もあります。立上りエッジ中のノイズグリッチによって、1-Wireデバイスがマスタと非同期になる場合もあります。拡張ネットワークフロントエンドの改善によって、こうした立上りエッジの問題に対処しています。
新しい1-Wireフロントエンドは、高周波ノイズ用のローパスフィルタ、ローからハイへの切換え時の電圧ヒステリシス、および立上りエッジホールドオフ時間という3つの主要要素を備えています。また、一部の1-Wireデバイスは、プレゼンスパルスに対してスルー制御を行います。図1 は、これらの機能を示しています。網掛けされたピンクの領域は、デバイスが電圧振幅時や1-Wireのローからハイへの遷移時のある期間にわたってグリッチをいかに無視するかを示しています。
図1. 新しい1-Wireフロントエンドの機能.
Device | FC | Description | 1-Wire Extended Network Support | Notes |
DS1822 | 22 | 1-Wire Econo temp sensor | ||
DS1825 | 3B | 1-Wire thermometer with 4-bit address | ||
DS18B20 | 28 | Adjustable resolution temperature | ||
DS18S20 | 10 | Temperature and alarm trips | ||
DS1904 | 24 | Real-Time Clock (RTC) iButton | ||
DS1920 | 10 | Temperature and alarm trips | ||
DS1921G | 21 | Thermochron temperature logger | ||
DS1921H | ||||
DS1921Z | ||||
DS1922E | 41 | High-Capacity Thermochron and/or Hygrochron temperature and/or humidity dataloggers, respectively | √ | |
DS1922L | ||||
DS1922T | ||||
DS1923 | ||||
DS1961S | 33 | 1Kb EEPROM memory with SHA-1 engine | √ | |
DS1963S | 18 | 4Kb NVRAM memory and SHA-1 engine | ||
DS1971 | 14 | 256-bit EEPROM memory and 64-bit OTP register | √ | |
DS1972 | 2D; | 1Kb EEPROM memory | √ | |
DS1973 | 23 | 4Kb EEPROM memory | ||
DS1977 | 37 | Password-protected 32kB (bytes) EEPROM | √ | |
DS1982 | 09 | 1Kb EPROM memory | ||
DS1885 | 0B | 16Kb EPROM memory | ||
DS1990A | 01 | 1-Wire address only | ||
DS1990R | 01 | 1-Wire address only | ||
DS1991 | 02 | Multikey iButton, 1152-bit secure memory | Not recommended for new designs, see application note 4421, "Alternatives to the DS1991L MultiKey iButton®" for alternatives. | |
DS1992 | 08 | 1Kb NV RAM memory | ||
DS1993 | 06 | 4Kb NV RAM memory | ||
DS1994 | 04 | 4Kb NV RAM memory and clock, timer, alarms | Not remommended for new designs, see application note 4506, "Alternatives to the DS1994L 4Kb Plus Time Memory iButton®" for alternatives. | |
DS1995 | 0A | 16Kb NV RAM memory | ||
DS1996 | 0C | 64Kb NV RAM memory | ||
DS2401 | 01 | 1-Wire address only | ||
DS2404 | 04 | 4Kb NV RAM memory and clock, timer, alarms | Not recommended for new designs | |
DS2406 | 12 | 1Kb EPROM memory, 2-channel addressable switch | ||
DS2408 | 29 | 8-channel addressable switch | √ | |
DS2409 | IF | Dual switch, coupler | Not recommended for new designs | |
DS2411 | 01 | Low-voltage, unique 64-bit serial ROM number (requires VDD connection) | √ | |
DS2413 | 3A | Dual-channel addressable switch | √; | |
DS2417 | 27 | RTC with interrupt | ||
DS2422 | 41 | High-capacity Thermochron/Hygrochron (temperature and humidity) datalogger | √ | Not recommended for new designs |
DS2430A | 14 | 256-bit EEPROM memory and 64-bit OTP register | √ | Not recommended for new designs |
DS2431 | 2D | 1Kb EEPROM memory | √ | |
DS2432 | 33 | 1Kb EEPROM memory with SHA-1 engine | ||
DS2433 | 23 | 4Kb EEPROM memory | ||
DS2438 | 26 | Temperature, ADC | ||
DS2450 | 20 | Quad ADC | ||
DS2502 | 09 | 1Kb EPROM memory | ||
DS2505 | 0B | 16Kb EPROM memory | ||
DS2703 | 34 | Battery-packed authentication IC | ||
DS2740 | 36 | 1-Wire coulomb counter (high precision) | ||
DS2762 | 30 | 1-Wire battery monitor and protector | ||
DS2775 | 32 | Stand-alone 1-Wire fuel gauge | ||
DS2776 | ||||
DS2777 | ||||
DS2778 | ||||
DS2780 | ||||
DS2784 | ||||
DS2788 | ||||
DS2781 | 3D | Stand-alone fuel gauge IC | ||
DS28E04-100 | 1C | 4Kb EEPROM memory, two-channel addressable switch, 7 address pins | √ | |
DS28EA00 | 42 | 1-Wire digital thermometer with sequence detect and PIO | √ | |
DS28EC20 | 43 | 20Kb 1-Wire EEPROM | √ |
注:新しい1-Wireデバイスは常時、製品ラインに追加されています。最新の製品がこのリストに記載されていない場合もあります。デバイスが新しい拡張ネットワークフロントエンドを搭載しているかどうかを確認するには、デバイスのデータシートの「ネットワーク動作の改善(Improved Network Behavior)」の項を参照してください。
拡張ネットワーク規格(Extended Network Standard)の新機能は標準速度通信時にのみ完全アクティブになり、オーバドライブ時では完全アクティブではありません。これらの機能の1-Wireフロントエンドへの追加によって、1-Wireタイミング規格が影響を受ける場合があります。特に、新規格は、立上りエッジホールドオフ時間を表すECテーブルパラメータ、tREHを採用しています。このホールドオフ動作によって、マスタで生成され、読取りビットtRLで必要なロー時間が増大します。表2を参照してください。
長いラインを使って、1-Wireデバイスと通信するアプリケーションに対する現場経験は、ビット間の十分なリカバリの重要性を実証しています。このため、すべての拡張ネットワークデバイスのリカバリ時間、tRECは長くなっています。1-Wireバス上の1個のデバイスに対して、全デバイス用のリカバリ時間規格(標準および拡張ネットワーク)が付与されています。この規格を複数デバイスに拡大するガイドについては、アプリケーションノート3829 「複数スレーブを備える1-Wireネットワークの回復時間の算出」を参照してください。
プレゼンスパルスに対するスルー制御を搭載するデバイスは、プレゼンス検出立下り時間(Presence Detect Fall Time)用のパラメータ、tFPDを備えています。スルーの制御によって長いラインでの反射が低減する一方で、マスタがプレゼンスパルスを検出可能なウィンドウが大きな影響が受けます。1-Wireマスタでのインピーダンス整合が、スルーレート遅延をもたらさずに、これらの反射の制御に同様に有効な場合もあります。このため、今後発売されるデバイスは、プレゼンスパルススルーレート機能を搭載しない場合もあります。
表2. ECテーブルの特異点
Parameter | Speed | Min/Max | Standard | Extended Network* | ||
tREC | Standard | Min | 1µs | 5µs | ||
Overdrive | Min | 1µs | 2µs | |||
tREC (before reset) | Overdrive | Min | 1µs | 5µs | ||
tREH | Standard | Min | - | Varies from 0.5µs to 0.6µs | ||
Standard | Max | - | Varies from 2µs to 5µs | |||
Overdrive | Min | - | Varies from 0µs to 0.6µs | |||
Overdrive | Max | - | Varies from 0µs to 2µs | |||
tRL | Overdrive | Max | 1µs | 5µs | ||
*実際のtREHの値については製品データシートをご参照ください。 |
まとめ
1-Wireマスタは、標準および拡張ネットワークデバイスの両方で動作することができます。拡張ネットワークデバイスへの対応は、ビット間のリカバリ時間の拡大や、読取りビットtRLの長いスタートパルスの使用と同様に容易です。リカバリ時間の拡大がスループットを鈍化させますが、読取りビットのスタートパルスの変化はスループットに影響を与えません。プレゼンスパルススルー制御、tFPDを使用するデバイスで構成されるネットワークの場合は、注意してプレゼンスパルスの標本点を選択する必要があります。一部のデバイスと電圧については、サンプル範囲が制限される場合があります。
アプリケーションノート126 「ソフトウェアを介した1-Wire通信」は、標準および拡張ネットワークデバイスに対応済みのタイミング付きの簡易な1-Wireマスタを紹介しています。このアプリケーションノートは、1-Wireスレーブデバイスと立上り時間などのネットワーク状態に応じてパラメータをカスタマイズするためのExcelスプレッドシートを備えています。Excelシートはダウンロードできます。