DN-192: 12ビット3Msps逐次比較ADCによるパイプライン問題の解決

新型12ビット3Msps ADCは、高速ADCユーザに比類のない性能レベルと使いやすさを提供します。逐次比較(SAR)方式により、対象速度範囲においてパイプライン型ADCおよびサブレンジングADCにおける多くの問題を解決します。このデザインノートではこれらの問題を説明し、新型の使いやすい選択肢であるLTC®1412を紹介します。

LTC1412は、速度、性能、サイズのバランスが理想的です。このデバイスの特長と利点は以下のとおりです:

  • 低消費電力の完全な12ビット3Msps ADC
  • 優れたAC性能:ナイキスト周波数における72.5dBのSINADと83dBのSFDR
  • 優れたDC性能:標準±0.25LSBのINLおよびとDNL(±1LSB最大)
  • パイプライン遅延なしのスリーステート出力バス(DSPインタフェース信号付きパラレルI/O)
  • 小型28ピンSSOPパッケージ

パイプライン問題

パイプライン型ADCは、フルフラッシュ・コンバータ以外では最も高速です。実際のところ、LTCはパイプライン型ADCとサブレンジングADCの両方を製造しています。しかし、12ビット以上の分解能では、これらのアーキテクチャは、多くの基本的な欠点を持つことがあります。これらの欠点には、貧弱なノイズおよびSNR性能、複雑なリファレンス回路、複雑な入力回路、パイプライン待ち時間、および周波数領域性能の不足などがあります。また、パッケージ・サイズが大きく、消費電力が高くなっています。スリーステート出力もありません。

LTC1412の長所

LTC1412のブロック図を図1に示します。以下、パイプライン型ADCと比較した場合のLTC1412 SAR ADC設計の利点をいくつか説明します。より詳しい情報は、リニアテクノロジー・マガジンの1998年8月号に記載されています。

The LTC1412 Combines the Inherent Linearity of a High Performance 3Msps S/H and 12-Bit ADC 図1. 内蔵リファレンス、mP/mCロジック・インタフェース、およびスリーステート・パラレル出力データ・バッファを備えた、優れた直線性を有する高性能3Msps S/Hおよび12ビットADC、LTC1412

図1. 内蔵リファレンス、mP/mCロジック・インタフェース、およびスリーステート・パラレル出力データ・バッファを備えた、優れた直線性を有する高性能3Msps S/Hおよび12ビットADC、LTC1412

利点#1:クリーンな動作と優れた直線性


LTC1412の精度はコンデンサのマッチングによってのみ決まります(パイプライン・アンプや誤差を生じるインタステージS/Hはありません)。これにより、INLは標準0.25LSB、DNLは実質上ゼロ・ドリフトとなっています。図2にLTC1412の標準的なINLおよびDNL性能を示します。もう一つの利点は、パイプライン型ADCが影響を受けやすいスパークル・コードがないことです。

The LTC1412’s Inherent Linearity is Shown in These INL and DNL Curves 図2 LTC1412固有の直線性を示すINLおよびDNL曲線
The LTC1412’s Inherent Linearity is Shown in These INL and DNL Curves 図2 LTC1412固有の直線性を示すINLおよびDNL曲線

図2 LTC1412固有の直線性を示すINLおよびDNL曲線

利点#2:低ノイズおよび高SNR


パイプライン型ADCは、変換がパイプラインを進むのに応じて、入力信号を再サンプリングするので、変換にノイズが加わります。逆に、LTC1412はシングルS/Hおよびシングルパス変換SARアーキテクチャがほとんどノイズを付加しないので、ほぼ完璧なノイズ性能を実現しています。これにより、3Mspsで比類のない性能を発揮します。SNRは73dB(標準)であり、理論的な12ビットADC量子化ノイズの1dB以内です。LTC1412はナイキスト周波数において、83dBのスプリアス・フリー・ダイナミック・レンジの基本歪み性能も達成しています。図3にナイキストにおけるLTC1412のFFTを示します。

The LTC1412’s Simple SAR Achieves 72.5dB SINAD and 83dB SFDR When Converting at 3Msps 図3. LTC1412は単純なSARによって、3Mspsでの変換時に72.5dBのSINADと83dBのSFDRを達成

図3. LTC1412は単純なSARによって、3Mspsでの変換時に72.5dBのSINADと83dBのSFDRを達成

利点#3:単純な入力およびリファレンス回路


LTC1412の高インピーダンス、差動入力S/H、および内蔵リファレンスによって、アナログ・サポート回路が大幅に単純化されます。LTC1412のS/Hは、一般にパイプライン型ADC回路に必要なレベル・シフト、相補差動入力信号、トランスは必要ありません。LTC1412はリファレンスを内蔵しているので、パイプライン・コンバータに通常必要な複数のリファレンス・ピン、複数のバイパス・コンデンサ、および高速リファレンス・バッファ・アンプは不要です。LTC1412の内部リファレンスは、2:1のスパン調整電圧範囲にわたって直線性を維持します。この柔軟性は通信からイメージ処理までの幅広い範囲をカバーします。

利点#4:インタフェースが容易:


パイプライン遅延をなくし、スリーステート出力を提供します。変換データは変換開始の300ns後に、LTC1412のスリーステート出力に現れるので、入力サンプルと対応する出力データ間のパイプライン遅延、すなわち待ち時間をなくします。LTC1412にはパイプラインがなく、時間遅延や位相シフトの影響を受けないので、高速サーボループ制御システムやDSP、モータ・コントロール、非同期またはイベント駆動サンプリングおよび多重化などのアプリケーションに応用できます。

利点#5:小型パッケージ・サイズと低消費電力


3MspsパイプラインADCの速度が等しく、LTC1412の単純かつ効率的なデザインおよび低消費電力(150mW)により、小型28ピンSSOP表面実装パッケージでの供給が可能になりました。これは44ピンPLCCと同じサイズになる可能性があるパイプライン型ADCのパッケージよりもはるかに小型です。図4は各種パイプラインADCとSSOPのLTC1412のパッケージ・サイズを比較したものです。

A Benefit of the LTC1412’s Size and Power- Efficient Architecture is the Smallest Package 図4. サイズと電力効率の高いアーキテクチャにより3Mspsのパラレル出力ADCで最も小型パッケージのLTC1412

図4. サイズと電力効率の高いアーキテクチャにより3Mspsのパラレル出力ADCで最も小型パッケージのLTC1412

まとめ

パイプライン型ADCは、サンプリング・レートが非常に高い場合に有用ですが、前述したような問題を抱えています。LTC1412の登場により、パイプライン型3Mspsコンバータを使用する設計者は、クリーンなSARを持つ新しいデバイスを選択できるようになりました。LTC1412はパイプラインの欠点と問題点を解決します。

著者

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Dave Thomas

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Kevin Hoskins

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