AN-691: 低周波での RF ディテクタ製品の動作
はじめに
アナログ・デバイセズは、最大8.0 GHz までの種々の周波数範囲で動作するようにデザインされたポートフォリオ内に多くのRF ディテクタ製品を持っています。これらの製品のデータ・シートでは、性能をリストして高い周波数での保証動作を規定していますが、製品の大部分はこれより低いオーディオ帯域の周波数でも非常に良好に動作することができます。このアプリケーション・ノートでは、これらの製品の低い入力周波数での性能をまとめます。また、性能のグラフも示します。
このアプリケーション・ノートでは、AD8302、AD8306、AD8307、AD8309、AD8310、AD8361、AD8362 の低周波性能について説明します(AD8314 は含みません。この製品は入力に直列コンデンサがあるので低周波で使用できないためです)。適切な注意のもとで、これらのデバイスの幾つかは入力でDC 結合することもできます。動作が可能な最小周波数は、実質的に外部回路により決まります。
これらのデバイスは、復調ログアンプ、指数ログアンプ、復調ログアンプを採用した特定用途回路、rms/DC コンバータの4 種類に分類することができます。表I に、各デバイスの分類を示します。
製品番号 | 分類 |
AD8302 | 特定用途 |
AD8306 | 復調ログアンプ |
AD8307 | 復調ログアンプ |
AD8309 | 復調ログアンプ |
AD8310 | 復調ログアンプ |
AD8361 | RF rms/DC コンバータ |
AD8362 | 指数ログアンプ |
これらの製品分類の基本的な性能パラメータを理解することは重要です。各デバイスのデータ・シートには、ここでの説明より詳しい包括的な動作原理のセクションが含まれています。
復調ログアンプ
ADI の復調ログアンプ(ログアンプ)は、入力信号振幅の常用対数に比例する出力を発生します。この応答はdB 表示で直線と呼ばれます。伝達関数は、デシベル(dB)で表した入力信号振幅に対してプロットすると直線になります。この直線は、ADI データ・シート内でスロープとx インターセプトを使って規定されています。これらのログアンプは非常に感度が高いため、ログアンプの入力セクションで発生する小さいノイズに対する応答を、ディテクタ出力での非常に小さい入力信号に対する応答から区別することはできません。このため、入力信号振幅が0 V になっても、検出された出力電圧は0 V になりませんが、入力信号振幅が0 V に近いとき一般に300 mV 以下の範囲内の下限に近づきます。ここで説明するx インターセプトは、伝達関数が横軸と交差する(または交差が予想される)外挿ポイントです。図1参照。

図1.基本的なログアンプの伝達関数
伝達関数のスロープは、入力信号振幅変化に対する検出出力電圧変化をdB で表したものです。ログアンプの場合、スロープはmV/dB で表されます。
これらの値は、実際の検出出力電圧対入力信号レベルのカーブの中央直線部分に線形回帰を適用して決定します。したがって、各入力レベルでの実際の測定電圧を線形回帰で予測した値と比較して製品の対数適合度を決定します。理想ログアンプ対入力信号レベルの対数適合度は0 dB になります。実際には、ADI ログアンプのダイナミック・レンジは一般に、対数適合度が最大±1 dB となる範囲と定義されています。
AD8306 とAD8309 には差動出力もあり、これは入力信号を制限して出力するものです。
RF RMS/DCコンバータ
AD8361 TruPwr™ディテクタは、入力信号電圧に対して2 乗平均のアナログ演算を行い、入力のrms 電圧に比例した出力電圧を発生します。このデバイスの伝達関数は、電圧表示で直線になり、スロープは厳密に制御されています。AD8361 は、グラウンド・リファレンス(GRM)、内部リファレンス(IRM)、または電源リファレンス(SRM)の3 つのモードで動作することができます。これらのモードはすべて同じスロープを発生しますが、y インターセプトが異なります。公称インターセプトは、電源電圧= 5 V で、GRM では0 Vに、IRM では400 mV に、SRM では670 mV に、それぞれなります。AD8361 の対数適合度は、復調ログアンプと同じ方法で決定されます。
指数ログアンプ
AD8362 TruPwr ディテクタは、復調ログアンプおよびAD8361rms/DC コンバータと多くの共通点を持つ指数ログアンプです。AD8362 の伝達関数は、復調ログアンプと同様にdB 表示で直線です。検出出力電圧は入力信号電圧の2 乗処理と平均処理により決定され、AD8361 の場合と同様に入力信号のrms 値に比例する出力電圧を発生します。AD8362 のスロープ、インターセプト、対数適合度はすべて、復調ログアンプと同じ方法で決定されます。
特定用途
AD8302 ゲイン/位相ディテクタは、2 つの入力信号の相対的な振幅と位相を求める特定用途デバイスです。このデバイスは2 個の一致した復調ログアンプを内蔵し、各々は検出出力とリミッタ出力の2 つの出力を持っています。チャンネルB の検出出力がチャンネルA の検出出力から減算されます。得られた信号は処理/バッファされて、2 つの入力信号振幅(すなわちゲイン)の比に比例する出力電圧を発生します(dB 表示で直線の伝達関数を持ちます)。各ログアンプのリミッタ出力は、内部でデジタル位相ディテクタに接続されています。この位相ディテクタ出力も処理/バッファされて、2 つの入力信号の相対位相を表す電圧(度表示で直線)を発生します。
AD8306
AD8306 は自己完結型のIF リミット・アンプであり、100 dB ダイナミック・レンジの入力信号の正確な対数値(RSSI 機能)と、5 MHz~400 MHz で使用可能なプログラマブルなリミッタ出力を提供します。
図2 に、AD8306 の基本接続を示します。図3 と図4 に、下限周波数10 MHz までの、ディテクタの伝達関数と対数適合度誤差を示します。表II、図5、図6 に、低い周波数でのAD8306 の動作を示します。

図2. 5 MHz~400 MHz での動作に対するAD8306 の基本接続

図3. AD8306 の対数スロープ

図4. AD8306 の対数適合度
100 Hz | 500 Hz | 5 kHz | 100 kHz | |
Slope (V/dB) | 0.021 | 0.020 | 0.021 | 0.020 |
Intercept (dBm) | –80.361924 | –92.2991 | –92.0141 | –94.8569 |

図5.低周波でのAD8306 ディテクタの伝達関数
非常に低い周波数でのテストに使用したStanford 社のDS345 ファンクション・ジェネレータの制約により、5 kHz 以下で–35 dBm より低い入力電力レベルを加えることができませんでした。5 kHz より上では、Rohde & Schwarz 社のSMT03 信号ジェネレータを使用しました。
テスト装置の制約があっても、低周信号を処理するAD8306 の機能について詳しいデータを取得することができました。これを実施するため、デバイスの外部回路を変更する必要がありました。
AD8306 が検出できる最小周波数は、入力ピンINHI とINLO の整合回路のハイパス・コーナー周波数で決定されます。この関係を表す式は次のようになります。
ここで、
CC = C1 = C2 (図2 参照)。
評価ボードの標準設定では、R = 52.3 Ω、CC = 0.01 μF、ハイパス・コーナー= 304 kHz です。CCを10 μF に増やすと、コーナー周波数は304 Hz に低下します。
図5 に、低周波でのAD8306 の対数スロープを示します。規定のスロープとインターセプトは、それぞれ20 mV/dB と–95 dBm です。表II と図5 のデータに示すように、AD8306 は下側500 Hz まで、これらのデータシート仕様に非常に近い動作を行うことができます。500 Hz より下では、デバイスのインターセプトは大きく変化し始めますが、スロープは一定です。対数適合度(図6)も限定されたダイナミック・レンジ内で±1 dB 内の仕様を維持します。

図6.低周波でのAD8306 の対数適合度
AD8307
AD8307 はプログレッシブ圧縮技術を採用した自己完結型の500MHz モノリシック復調ログアンプであり、最大100 MHz までのすべての周波数で、ダイナミック・レンジは±3 dB 対数適合度に対して92 dB に、±1 dB の厳しい誤差範囲に対して88 dB に、それぞれなります。極めて安定で使い易く、外部部品はほとんど不要です。7.5 mA で単電源電圧2.7 V~5.5 V が必要です。これは3 V でわずか22.5 mW の消費電力に対応します。高速動作のCMOS 互換制御ピンによりAD8307 をディスエーブルして、スタンバイ電流を150μA 以下にすることができます。
図7、図8、図9 に、基本接続を示します。この基本接続では、ログアンプおよびデータ・シートで規定されるダイナミック・レンジ内の種々の周波数に対する代表的な対数スロープと対数適合度を使っています。

図7. AD8307 の基本接続

図8. AD8307 の対数伝達関数

図9. AD8307 の対数適合度誤差
PIN (dBm) | 100 Hz | 500 Hz | 5 kHz | 100 kHz |
Slope (V/dB) | 0.025 | 0.025337 | 0.025 | 0.025 |
Intercept (dBm) | –38.94674 | –52.01522 | –71.88571 | –88.34169 |
PIN (dBm) | 20 Hz | 100 Hz | 500 Hz | 5 kHz | 100 kHz |
Slope (V/dB) | 0.025 | 0.025 | 0.0246 | 0.025 | 0.025 |
Intercept (dBm) | –65.42 | –79.293 | –88.937 | –89.673 | –89.2263 |
PIN (dBm) | 20 Hz | 100 Hz | 500 Hz | 5 kHz | 100 kHz |
Slope (V/dB) | 0.025 | 0.025 | 0.0247 | 0.025 | 0.025 |
Intercept (dBm) | –84.55 | –89.9 | –90.18 | –90.034 | –89.7626 |
AD8306 の場合と同様に、入力結合コンデンサCC によりINHI とINLO でのハイパス・コーナー周波数が決定されます。これらのコンデンサ値を大きくすると、低周波でAD8307 の性能が影響を受けますが、必要な変更はこれらだけに限りません。
アナログ・デバイセズのすべてのプログレッシブ圧縮ログアンプはオフセット補償ループを内蔵しています。このオフセット補償ループは、各固定ゲイン・ステージ間のDC オフセットをゼロにするために使われます。オフセット帰還は、AD8307 では±1.5 mV の範囲に制限されています。これより大きい信号はオフセット制御ループを無効にするため、非常に小さい入力に対する性能に影響を与えます。OFS ピンとグラウンドとの間に外付けコンデンサを接続すると、このオフセット・ループのハイパス・コーナーを任意の低い周波数に下げることができます。1 μF を使うと、このコーナーは10 Hz より低くなります。DC 出力電圧を滑らかにするため、VOUT ピンにも1 μF のコンデンサを使用しました。このコンデンサは低周波動作には不要です(図10 参照)。

図10.低周波動作用のAD8307 の変更
図11~図16 に、CCを変化させたときのディテクタの伝達関数と対数適合度の影響を示します。

図11. AD8307 の伝達関数、CC = 0.1 μF.

図12. AD8307 の伝達関数、CC = 10 μF

図13. AD8307 の伝達関数、CC = 100 μF

図14. AD8307 の対数適合度誤差、CC = 0.1 μF

図15. AD8307 の対数適合度誤差、CC = 10 μF

図16. AD8307 の対数適合度誤差、CC = 100 μF
図11~図16 に、低い入力周波数でのAD8307 の非常に優れた性能を示します。10 μF 以上の入力結合コンデンサを使うと、kHz の低い周波数まで±1 dB 誤差で55 dB~60 dB のダイナミック・レンジを実現することができます。100 μF 以上のコンデンサを使うと、ハイパス・コーナーがさらに低くなるため、数百Hz の動作が可能になり、ダイナミック・レンジは70 dB に近づきます。5 kHz 以上の入力信号と10 μF 以上の入力結合コンデンサでは、AD8307 はスロープとインターセプトのデータ・シート仕様を満たし、さらに±1dB の測定精度も実現します。
信号ジェネレータの制約により非常に低い周波数で–35 dBm 以下の測定ができなかったことに注意することは重要です。前に示した回路図とデータ・シートに記載する内容を使うと、AD8307 はDC までの入力信号に応答します。
AD8309
AD8309 は、プログレッシブ圧縮(連続検出)技術を採用した500MHz ログアンプです。このログアンプは、携帯電話基地局、レーダ、その他の無線トランシーバ・アプリケーションでの受信信号強度表示(RSSI)と位相検出に役立ちます。このデバイスは、80 dB中心で±0.4 dBの精度で、100 dB のダイナミック・レンジを提供し、最大500 MHz で動作します。ログ出力は入力信号の対数に比例し、100 dB の入力範囲で0.4 V~2.5 V のDC 信号を提供します。入力信号を100 dB 増幅したリミッタ出力は、±100 ps の最大位相スキューを持つ安定な制限済み出力を提供します。このリミッタ出力は、FSK 変調信号とPSK 変調信号の復調に役立ちます。AD8309 は、2.7 V~5.5 V DC の単電源で動作し、消費電流は20 mA (typ)です。

図17. AD8309 の基本接続

図 18. AD8309 の対数スロープ

図 19. AD8309 の対数適合度
低周波でのAD8309 の性能は、AD8306 の性能に非常に似ており、スロープとインターセプトの変動を抑えるためAD8306 でレーザ・トリムされている点のみが異なります。
AD8309 は、下側500 Hz まで、データ・シート仕様のスロープとインターセプトを満たしています。また、このデバイスの対数適合度は、10 μF の入力結合コンデンサを使用することにより、約60dB に対して±1 dB です。これらのコンデンサ値を100 μF に増やすと、実効測定範囲はさらに10 dB~15 dB 広くなります。表VI、図20、図21 にこの性能を示します。詳細はAD8306 についてのセクションに記載してあります。
PIN (dBm) | 100 Hz | 500 Hz | 5 kHz | 100 kHz |
Slope (V/dB) | 0.021 | 0.020 | 0.021 | 0.020 |
Intercept (dBm) | –79.5967773 | –91.25803 | –91.09921 | –93.77405 |

図20.低周波でのAD8309 の伝達関数

図21.低周波でのAD8309 の対数適合度
AD8310
AD8310 は超高速応答を持つ多機能ログアンプであり、8 ピンMSOP パッケージを採用しています。このデバイスはプログレッシブ圧縮技術を採用した400 MHz モノリシック復調ログアンプであり、最大300 MHz までの周波数で、ダイナミック・レンジは±3 dB対数適合度に対して95 dB に、±1 dBの誤差範囲に対して90 dBに、それぞれなります。極めて安定で使い易く、外部部品はほとんど不要です。2.7 V~5.5 V の単電源電圧が必要で、消費電力は2.7 Vでわずか20 mW です。AD8310 は要求の厳しいIF 信号測定アプリケーションに最適です。AD8310 は15 ns の非常に高速な応答時間を持つため、10 MHz 以上までのASK 変調波形の検波が可能です。その他のアプリケーションとしては、RSSI、送信電力制御、バースト検出などがあります。

図 22. AD8310 の基本接続

図 23. AD8310 の対数スロープ

図 24. AD8310 の対数適合度
PIN (dBm) | 20 Hz | 100 Hz | 500 Hz | 5 kHz | 100 kHz |
Slope (V/dB) | 0.0249 | 0.02474 | 0.025 | 0.02481 | 0.02494 |
Intercept (dBm) | –86.376 | –92.0169 | –91.517 | –92.277 | –91.769 |
AD8310 は低周波で極めて優れた動作をします。他のプログレッシブ圧縮ログアンプと同様に、INHI とINLO のハイパス・コーナーを低くするためには、入力結合コンデンサを大きくする必要があります。低周波アプリケーションの場合、この値は10 μF にする必要があります。
AD8307 と同様に、AD8310 のオフセット補償ループを調節する必要があります。外部補償なしの場合、ループのコーナー周波数は2MHz です。1 μF のコンデンサをOFLT ピンに接続すると、3 dB ローパス・コーナー周波数が60 Hz に低下します。
測定ノイズを減らすためには何らかのフィルタ機能を使うことも必要です。2.7 nF のコンデンサをBFIN に接続すると、出力ステージの帯域幅が狭くなり、出力対数電圧の精度が高くなります。図27 に、これらの変更を示します。
図25 と図26 に、低周波動作でのAD8310 の対数スロープと精度を示します。 スロープとインターセプトは、下側100 Hz までデータ・シート仕様を維持します。入力信号が100 Hz より低くなるとインターセプトは大きくなり始めますが、スロープは一定です。

図 25.低周波でのAD8310 の対数スロープ

図 26.低周波でのAD8310 の対数適合度

図 27.低周波動作用のAD8310 の変更
AD8361
AD8361 はTruPwr ディテクタRFIC であり、RF rms に応答する電力検出を内蔵した最初の製品です。このデバイスは、最大2.5 GHzまでの複素変調RF 信号をRF 信号のrms レベルを表すDC 電圧へ変換することができます。優れた直線性と温度安定を持つため、CDMA、QAM、その他の複素変調方式の検出に使うことができます。ダイナミック・レンジは30 dB です。測定精度は、14 dB と23 dBのダイナミック・レンジ上端でそれぞれ0.25 dB と1 dB です。AD8361 は小型の8 ピンMSOP パッケージを採用し、2.7 V~5.5 Vの電源電圧で消費電流はわずか1.1 mA です。

図 28. AD8361 の基本接続

図 29.さまざまな周波数でのAD8361 のスロープ、GND リファレンス・モード、2.7 V 電源

図 30. 900 MHz でのAD8361 の誤差、GND リファレンス・モード、2.7 V 電源

図31. AD8361 の伝達関数、CC = 1 μF

図 32. AD8361 の伝達関数、CC = 10 μF

図 33. AD8361 の伝達関数、CC = 100 μF

図 34. AD8361 の対数適合度、CC = 1 μF

図 35. AD8361 の対数適合度、CC = 10 μF

図 36. AD8361 の対数適合度、CC = 100 μF
Frequency | ||||||||||
PIN (dBm) | 100 Hz | 200 Hz | 300 Hz | 500 Hz | 700 Hz | 1 kHz | 10 kHz | 100 kHz | 1 MHz | 10 MHz |
Slope (V/V) | 2.076429 | 3.684286 | 4.990714 | 6.898857 | 7.766286 | 8.233714 | 10.032 | 9.974 | 10.242 | 10.242 |
Intercept (dBm) | –0.002328 | –0.01208 | –0.01261 | –0.00858 | –0.01139 | –0.016 | –0.00242 | –0.00262 | –0.00153 | –0.00153 |
Frequency | ||||||||||
PIN (dBm) | 100 Hz | 200 Hz | 300 Hz | 500 Hz | 700 Hz | 1 kHz | 10 kHz | 100 kHz | 1 MHz | 10 MHz |
Slope (V/) | 8.64 | 9.67 | 9.86 | 9.98 | 10.01 | 10.03 | 10.01 | 10.04 | 10.07 | 10.13 |
Intercept (dBm) | –0.00601 | –0.00309 | –0.00371 | –0.00356 | –0.00357 | –0.00356 | –0.00363 | –0.00252 | –0.00341 | –0.0032 |
Frequency | ||||||||||
PIN (dBm) | 100 Hz | 200 Hz | 300 Hz | 500 Hz | 700 Hz | 1 kHz | 10 kHz | 100 kHz | 1 MHz | 10 MHz |
Slope (V/V) | 10.06 | 10.10 | 10.07 | 10.06 | 10.06 | 10.05 | 10.01 | 9.95 | 10.06 | 10.13 |
Intercept (dBm) | –0.00206 | –0.00259 | –0.00322 | –0.0034 | –0.00344 | –0.00362 | –0.00373 | –0.00366 | –0.0036 | –0.0032 |
AD8361 には3 種類のリファレンス動作モードがあります。このアプリケーション・ノートでデータの取得に使用したデバイスは、グラウンド・リファレンス・モード(GRM)に設定してあります。このモードでは、入力信号なしのときのAD8361 の出力は理論的に0V です。各デバイスには小さいオフセット電圧が発生し、通常は数十mV です。
復調ログアンプと同様に、AD8361 の入力はグラウンドより上のバイアス電位に落ち着きます。このため、AC 結合コンデンサが必要です。225 Ω の入力インピーダンスと直列コンデンサCCとの組み合わせにより、ハイパス・フィルタが形成され、デバイスが測定できる最小周波数がこのフィルタによって決定されます。AD8361で低周波信号を測定できるようにするために変更が必要なのは、回路のこの部分だけです。FLTR ピンに外付けコンデンサを接続して出力信号のノイズを減らすことが推奨されますが、これは必須ではありません。
表VIII、表IX、表X のデータと前掲のプロットは、入力コンデンサCCへの依存性を示しています。このフィルタの3 dB カットオフは次式で表されます。
1 μF のフィルタ・コンデンサを使うと、ハイパス・コーナーが700Hz に設定されるため、AD8361 は下側10 kHz までデータ・シート仕様を満たすことができます。。デバイスは実際に下側100 Hz までの信号に応答したことは興味深いことです。スロープはかなり小さくなりますが、インターセプトはゼロ近くに維持され、直線性の応答が観測されました。CCを10 μF まで大きくすると、ハイパス・コーナーは70 Hz に低下します。AD8361 は、700 Hz で予測したスロープとインターセプト仕様に一致するようになります。100μF を使うと、入力信号0.2 V rms 以下で100 Hz を超える周波数に対してデバイスの応答はほとんど見分けがつかなくなります。応答は高い入力信号レベルでのみ影響を受けます。
CC の小さい値のためにスロープ応答が小さくなっていますが、このデバイスの誤差は極めて優れています。前掲のプロットは、この誤差が–2 dB を超えないことを示しています。
AD8362
次世代のTruPwr ディテクタであるAD8362 は、ワイヤレス・インフラストラクチャ装置内で60 dB までの広いダイナミック・レンジの信号レベル測定機能を提供するようにデザインされています。この製品は、正確にスケールされたdB 表示で直線的な出力応答(入力波形の2 乗平均値(rms))を出力します。このため、波高率が大きい複素変調波形の測定に最適です。AD8362 は変調に依存しないため、WCDMA 変調、QAM/QPSK 変調、またはOFDM 変調を使う高いデータ・レートの無線ネットワークでの使用に最適です。

図 37.測定モードでのAD8362 の代表的な接続
PIN (dBm) | 10 kHz | 100 kHz |
Slope (V/dB) | 0.013 | 0.013 |
Intercept (dBm) | –49.9337406 | –49.90699 |
PIN (dBm) | 20 Hz | 100 Hz | 500 Hz | 5 kHz | 100 kHz |
Slope (V/dB) | 0.025 | 0.025 | 0.0246 | 0.025 | 0.025 |
Intercept (dBm) | –65.42 | –79.293 | –88.937 | –89.673 | –89.2263 |
PIN (dBm) | 20 Hz | 100 Hz | 500 Hz | 5 kHz | 100 kHz |
Slope (V/dB) | 0.025 | 0.025 | 0.0247 | 0.025 | 0.025 |
Intercept (dBm) | –84.55 | –89.9 | –90.18 | –90.034 | –89.7626 |

図 38. さまざまな周波数でのAD8362 の対数スロープ

図 39.さまざまな周波数でのAD8362 の対数適合度
AD8362 はAGC ループから構成されています。ループへのRF 入力はVGA を駆動しています。このVGA は固定ゲインのアンプを駆動する可変減衰器から構成されています。アンプの出力は2 乗されます。2 乗された信号は内部シャント・コンデンサにより積分されます。このコンデンサは多くのアプリケーションで外付けシャント・コンデンサにより増やすことができます。この2 乗平均された信号は、公称スタティック・リファレンス信号と比較されます。この比較の結果を使って、入力VGA の減衰制御機能が駆動されます。この電圧(ピンVOUT に出力)は、入力信号rms 電圧の常用対数に比例します。
AD8362 内のVGA の帯域幅は、ゲインに依存しません。このアンプは内部でDC 結合されているため、システムは正確なrms 電圧計として使うことができ、温度に対して安定なデシベル表示出力を維持し、たとえば、地震計、オーディオ、ソナー測定などの任意の低周波数で使用することができます。これは、フルスケール入力でのみフル帯域幅を持ち、入力レベルが減少すると帯域幅も狭くなる大部分のrms/DC コンバータ・アーキテクチャとは対照的です。
AD8362 の入力結合コンデンサは、信号の最小周波数成分(測定対象になる)の減衰が最小になるように、十分大きくする必要があります。例えば、1.5 kHz で3 dB 減衰の場合、1 μF の容量が必要です。これは、入力抵抗が各入力ピンで100 Ω (差動で200 Ω)であるため、1/(2π × 1500 × 100) = 1 μF となるためです。また、VGA のハイパス・コーナー周波数を低くするためには、50 μF-Hz のコンデンサをCHPF ピンとグラウンドとの間に接続する必要があります。同様に1.5 kHz ハイパス・コーナーの場合、33 nF のコンデンサを接続する必要があります。
2 乗セル出力に接続する外付けローパス平均処理用の容量CLPF は、検出信号の十分なフィルタ機能を提供し、AGC ループの安定性も維持するように選択する必要があります。最適値はアプリケーションに依存しますが、900 μF-Hz のガイドライン値を使う必要があります。例えば、5 μF の容量は下側180 Hz まで十分なフィルタ機能を提供します。

図40. AD8362 の伝達関数、CC = 0.1 μF

図 41. AD8362 の伝達関数、CC = 10 μF

図 42. AD8362 の伝達関数、CC = 100 μF

図 43. AD8362 の対数適合度、CC = 0.1 μF

図 44. AD8362 の対数適合度、CC = 10 μF

図 45. AD8362 の対数適合度、CC = 100 μF
AD8302
AD8302 は、2 つの独立な入力信号の相対振幅と相対位相を測定するRF IC です。このデバイスは一般的な携帯電話帯域(900 MHz、1.8 GHz、2.2 GHz)での使用向けのAD8302 データ・シートでキャラクタライズされており、低周波から最大2.7 GHz まで使用することができます。AD8302 は、一致した2 個の広帯域復調ログアンプ、広帯域デジタル位相ディテクタ、高精度1.8 V リファレンス電圧、アナログ出力スケーリング回路を内蔵しています。入力信号は–60dBm~0 dBm (50 Ω 基準)の範囲が可能で、60 dB のダイナミック・レンジに対応します。出力は、30 mV/dB でスケールされた±30 dB範囲の正確な振幅測定値と10 mV/degree でスケールされた0˚~180˚範囲の位相測定値を提供します。

図 46. AD8302 の基本接続

図 47. 100 MHz でのAD8302 の対数スロープと誤差

図 48. AD8302 の位相出力と非直線性
AD8302 を低周波で動作させるための入力回路の変更は、1 チャンネル・ログアンプの場合と同じです。図49 に、低周波動作に必要な変更を示します。
入力結合コンデンサCCにより、INPA とOFSA でのハイパス・コーナー周波数が決定されます。2 つ目の対数チャンネルINPB とOFSB でも同様です。これらのコンデンサ値を大きくすると、低周波でのAD8302 性能を改善することができます。
VMAG | ||||
PIN (dBm) | 20 Hz | 100 Hz | 500 Hz | 1 kHz |
Slope (v/dB) | 0.03072 | 0.029585714 | 0.02964 | 0.029603333 |
Intercept (dBm) | –30.82379955 | –31.51145534 | –31.50641271 | –31.5572116 |
VPHS | ||||
PIN (dBm) | 20 Hz | 100 Hz | 500 Hz | 1 kHz |
P_Slope | 0.011031515 | 0.011037576 | 0.011032121 | 0.011036813 |
N_Slope | –0.010994545 | –0.011036813 | –0.011024545 | –0.01104 |
PS_Intercept | –171.4731041 | –174.7615324 | –169.96435 | –174.3398531 |
NS_Intercept | 177.664949 | 173.4617513 | 178.4263471f | 173.9210955 |
また、MFLT ピンとPFLT ピンに1 μF のコンデンサを接続して、VMAG ピンとVPHS ピンのDC 出力電圧のリップルを減少させました。これは、リップルが許容できない場合にのみ必要です。
図50~図57 に、CCの種々の値でのゲインと相対位相の測定値への影響を示します。数十Hz レンジの入力信号の測定には10 μF 以上の大きいコンデンサ値が必要です。10 μF の入力結合コンデンサを使い、各チャンネルに100 Hz の入力信号を加えたとき、ゲイン測定で、30 dB レンジで±0.5 dB の精度を実現しました。位相精度は、150˚レンジで±1˚が得られました。

図 49.低周波数動作用のAD8302 の接続

図50. AD8302 のゲイン出力と10 kHz での適合度、CC = 1 μF

図51. AD8302 ゲイン出力と適合度、CC = 4.7 μF

図 52. 10 kHz でのAD8302 の位相出力と適合度、CC = 1 μF

図53. AD8302 の位相出力と適合度、CC = 4.7 μF

図54. AD8302 のゲイン出力、CC = 100 μF

図55. AD8302 の位相出力、CC = 100 μF

図56. AD8302 のゲイン適合度、CC = 100 μF

図57. AD8302 の位相適合度、CC = 100 μF
結論
ADI の高周波復調ログアンプ(AD8306、AD8307、AD8309、AD8310)、RF rms/DC TruPwr ディテクタ(AD8361)、指数AGC RF TruPwr ディテクタ(AD8362)、RF ゲイン/位相ディテクタ(AD8302)は、高い入力信号周波数で優れた性能を提供し、さらにRF より低い入力信号周波数でも、場合によってはオーディオ・スペクトルの下端でも正確な動作を行うことを示しました。