アプリケーション・ノート使用上の注意

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アプリケーション・ノート使用上の注意

AN-1392: チョッパ・アンプを備えたADC コンバータのオフセット誤差と入力インピーダンスの計算方法

はじめに

A/D コンバータ(ADC)内蔵のバッファとアンプには、通常チョッピング方式が採用されます。このチョッピングの実装例がAD7124-8AD7779 のデータシートに記載されています。CMOS トランジスタは、バイポーラ・プロセスなどの他のプロセスに比べてノイズが多く、マッチングが困難なので、アンプのオフセットとフリッカ・ノイズ(1/f)を最小限に抑えるために、このチョッピング技術が必要となります。アンプの入力信号をチョップすると、図1 に示すように、1/f とオフセットが高い周波数に移されます。

Figure 1. Flicker noise (1/f) against chopping. 図1. チョッピングに対するフリッカ・ノイズ(1/f)
図1. チョッピングに対するフリッカ・ノイズ(1/f)

チョッピング遷移時、スイッチのチャージ・インジェクションにより電流にピークが生じ、これがADC の入力に加わる電圧の方向(シンクまたはソース、または両方)に低下やピークを発生させます。電圧の低下は、ADC の入力に接続されたトランスデューサまたはセンサーの出力インピーダンスに比例します。

平均電流値

電流のピーク値は測定が難しい上、他に役立つ情報を何も追加しないため、通常はデータシートに記載されません。この情報は、バッファのチョッピング周波数がADC の入力信号の帯域幅より高いので、関連性がありません。したがって、ナイキスト周波数より高い周波数(トーン)を除去するため、あるいは結合ノイズを低減するために追加したローパス・フィルタは、図2に示すようにピーク電流を平均化します。

Figure 2. Input current vs. time. 図2. 入力電流と時間の関係
図2. 入力電流と時間の関係

電流メーターの一方の端子をVDD/2 に、もう一方の端子をADCのアナログ入力ピンに接続して、入力電流を電流メーターで測定します。

電流メーターをいずれかの電圧レールに接続した場合、入力電圧のヘッドルームのため、測定された電流がデータシート上の仕様より大きくなる可能性があります。

入力電流対入力インピーダンス

入力インピーダンスの仕様は、DC 誤差の正確な計算には役立ちません。誤差は、ADC 自体の入力インピーダンスがもたらす負荷効果よりも、主に入力バイアス電流の影響を受けるからです。

入力バイアス電流関連の仕様には、絶対と差動の2 つがあります。

絶対値(IABSOLUTE)は、いずれかのアナログ入力ピンで測定された入力電流で、差動入力電流(IDIFFERENTIAL)は、対になったアナログ入力ピン間で測定された電流差です。これは差動入力のADC にだけ該当します。

DC 誤差の計算方法

入力電流は、入力ピンに接続されたインピーダンスに直接依存するオフセット電圧(VOFFSET)を生じます。

図 3 に示すように、発生するオフセット電圧は一般に次式で表されます。

VOFFSET = IABSOLUTE × R

Figure 3. Voltage drop due to leakage current. 図3. リーク電流による電圧降下
図3. リーク電流による電圧降下

アナログ入力ピンをオぺ・アンプのような低インピーダンス源で駆動する場合、誤差は気づかれないほど微小です。

ADC で測定される誤差は、与えられる入力信号の種類、例えば真の差動入力信号か、擬似差動/シングルエンド入力信号かによって異なります。

真の差動入力信号の場合、入力抵抗(R)が完全にマッチングしていると仮定すると、ADC で測定される誤差は、次式に示すように、対になったアナログ入力ピン間の差動入力電流によって生じます。

VADC = V ± IDIFFERENTIAL × R

ここで、VADC は ADC の入力電圧です。

Figure 4. Differential input ADC. 図4. 差動入力ADC
図4. 差動入力ADC

抵抗が完全にはマッチングしていない場合、差動入力電流の要因に加え、この抵抗のミスマッチにより誤差が生じます。

一般に、抵抗許容誤差を1 % と仮定すると、ワーストケースのシナリオは次のように定義されます。

VOFFSET = 2 × IABSOLUTE × 1% R + IDIFFERENTIAL × (R)

擬似差動/シングルエンド入力信号の場合は、次の2 つのシナリオがあります。

  • アナログ入力の一方を低インピーダンス源に接続します(図5 参照)。誤差は次のように定義されます。

    VOFFSET = R × IABSOLUTE

    Figure 5. Pseudo differential/single-ended ADC. 図5. 擬似差動/シングルエンドADC
    図5. 擬似差動/シングルエンドADC
  • 両方の入力を高インピーダンス源に接続します(図6 参照)。誤差は、真の差動信号を使用した場合と同様になります。

     Figure 6. Pseudo differential ADC. 図6. 擬似差動ADC
    図6. 擬似差動ADC

AC 誤差

AC 成分は、入力インピーダンスの仕様に直接依存します。入力インピーダンスは抵抗性のことも容量性のこともあります。入力インピーダンスが容量性の場合、与えられた周波数でのインピーダンスは次のように計算します。

数式 1.

ここで、
ZC は入力インピーダンス。
CIN はデータシートに記載されている入力容量。
fIN は入力周波数。

例えば、容量が8 pF で入力帯域幅が1 kHz と仮定すると、最小入力インピーダンスは約20 MΩ となります。

誤差の最小化

ローパス・フィルタの抵抗のミスマッチに起因する誤差を最小限に抑えるには、小さい抵抗に生じるオフセットとジョンソン・ノイズは小さいため、小さい抵抗と容量の大きいコンデンサを使用するのが望ましいと言えます。

著者

Miguel-Usach

Miguel Usach Merino

Miguel Usach Merinoは、2008年にアナログ・デバイセズに入社しました。スペインのバレンシアでリニア/高精度技術グループに所属するアプリケーション・エンジニアとして業務に携わっています。バレンシア大学で電子工学の学位を取得しています。