AN-1373: ADA4530-1 を使用したフェムトアンペア・レベルの入力バイアス電流測定
はじめに
ADA4530-1 は、フェムトアンペア(10−15)レベルの入力バイアス電流(IB)と超低オフセット電圧を実現した電位計グレードのシングル・オペアンプです。システム・アプリケーションで確実に性能目標を満たすように、超低入力バイアス電流は25 °C と125 °C で出荷時にテストされています。図1 と図2 に、広範な温度および入力コモンモード電圧にわたるデバイスの卓越した入力バイアス電流性能を示します。
図 1. 入力バイアス電流(IB)と温度の関係
図 2. 非反転入力バイアス電流(IB+)とコモンモード電圧の関係(VCM)
ADA4530-1 は −40 °C ~ +125 °C の工業温度範囲で動作し、8 ピンSOIC パッケージを採用しています。さまざまな電流出力トランスデューサ(フォトダイオード、光電子増倍管)、分光測定、クロマトグラフィ、化学センサーの高インピーダンス・バッファリング用のプリアンプなど、非常に低い入力バイアス電流と低いオフセット電圧が要求されるアプリケーションに適しています。
ADA4530-1 には、独自のピン配置が採用されています。リークを防止するため、入力ピンと電力供給ピンはパッケージの反対側に配置されています。設計が容易になるように、ADA4530-1 はガード・バッファを内蔵しています。ガード・バッファは、入力ピンを囲むガード・リングを駆動し、プリント回路基板(PCB)設計の入力ピンへのリーク電流と基板部品数を最小限に抑えます。ガード・リングを簡単に配線できるように、ガード・バッファ出力ピンは入力ピンの横に配置されています。ガーディングおよびガーディング技法の物理的な実装方法の詳細については、ADA4530-1 データシートを参照してください。
通常、各種の低入力バイアス電流アンプは、T0-99 パッケージでも供給されています。これらのパッケージでは、高インピーダンス入力ピンを空中配線したり、Teflon® 絶縁体スタンドオフを使用してリーク電流を防止したりできます。ただし、これらの技術は製造コストの増加を伴い、自動化された最新のPCB組み立て工程との互換性がありません。ADA4530-1 に採用された表面実装型のプラスチック・パッケージにより、この従来の組み立て方法を回避できます。また、このパッケージは、最新の表面実装の製造環境で優れた信頼性を示します。
このアプリケーション・ノートでは、ADA4530-1R-EBZ-TIA またはADA4530-1R-EBZ-BUF 評価用ボードを使用して、SOICパッケージに収められたADA4530-1 のフェムトアンペア・レベルの入力バイアス電流を測定するいくつかの方法について説明します。
図 3. ADA4530-1R-EBZ-TIA の写真
図 3 に、ADA4530-1R-EBZ-TIA の写真を示します。本書の以降の部分では、ADA4530-1R-EBZ-TIA およびADA4530-1R-EBZ-BUF の両方をADA4530-1R-EBZ と表します。
ADA4530-1 の詳細については、ADA4530-1 データシートを参照してください。本アプリケーション・ノートとともにADA4530-1R-EBZ ユーザー・ガイド(UG-865)も参照してください。
クリーニングと取り扱い
アプリケーション・ノートで説明している入力バイアス電流測定方法ではADA4530-1R-EBZ を使用します。各測定を行う前にADA4530-1R-EBZ を適切にクリーニングして、ハンダ・フラックス、塩分を含む湿気、埃、塵などの汚染物を取り除きます。このクリーニングにより、ADA4530-1R-EBZ の低リーク性能を維持できます。
有効なクリーニング手順を以下に示します。
- クリーンルーム等級のイソプロピル・アルコールを入れた超音波槽に15 分間ADA4530-1R-EBZ を浸します。超音波クリーニングでは、高周波の超音波を使用するので、クリーニング液にキャビテーションが発生します。このプロセスにより、ADA4530-1R-EBZ の表面の汚染物や、手の届きにくいハンダ付けされた部品の下の汚染物を取り除くことができます。以下のクリーニング手順では、未使用のイソプロピル・アルコールを使用する必要があります。
- ピンセットを使用してADA4530-1R-EBZ を超音波槽から取り出します。イソプロピル・アルコールでADA4530-1R-EBZをすすいで洗い流し、残留汚染物を取り除きます。
- ADA4530-1R-EBZ にイソプロピル・アルコールを注いで、酸性ブラシで優しくこすります。U1 ピン間の領域、J1 への入力パターン、ガード・リング、SHIELD1 内の領域を集中的にクリーニングします。
- 再度イソプロピル・アルコールでADA4530-1R-EBZ をすすいで洗い流します。
- ADA4530-1R-EBZ の下面で手順3 と手順4 を繰り返します。
- 最終洗浄として、イソプロピル・アルコールでADA4530-1R-EBZ の上面と下面を洗い流します。
- 圧縮乾燥空気を使用して、ADA4530-1R-EBZ を乾燥させます。U1 ピン、J1 への入力パターン、ガード・リング領域の周囲に空気を吹き付けます。J1 とU1 の下にも圧縮空気を吹き付けます。
- ADA4530-1R-EBZ が完全に乾燥するように、125 °C の高温チャンバー内で15 分間ADA4530-1R-EBZ を加熱します。
- クリーニングの完了後、金属シールドのカバーを取り付けます。金属シールドは、保護されている領域への接触を防止する目的でも役立ちます。
ADA4530-1R-EBZ を取り扱う際は必ず端の部分を持ち、絶対にSHIELD1 またはSHIELD2 内の領域には触れないでください。
測定技法
ADA4530-1R-EBZ には、2 つのデフォルト構成があります。ADA4530-1R-EBZ-BUF は被テスト・デバイス(DUT)がバッファ・モード、ADA4530-1R-EBZ-TIA は DUT がトランスインピーダンス・モードになっています。
ADA4530-1R-EBZ の金属シールドは、外部干渉からの容量結合を防止します。シールドは、ガードされている領域への接触も防止するので、指紋や塵による高インピーダンス入力に対する汚染を防止できます。ADA4530-1R-EBZ-BUF とADA4530-1R-EBZ-TIA には、1.0 インチ× 1.5 インチ× 0.25 インチの金属シールドが基板の上面(SHIELD1)と下面(SHIELD2)にあらかじめ取り付けられています。さらに、各評価ボードには、大きな1.5 インチ× 3 インチ× 0.75 インチの金属シールド(SHIELD2)が付属しています。各基板には、SHIELD2 を所定の位置に固定するための金属クリップが取り付けられています。ガード・バッファは、これらのシールドをDUT の非反転ピン電位まで駆動します。
入力バイアス電流を評価する際は、より優れた静電シールド性能を実現できるようにADA4530-1R-EBZ を金属製のボックスでシールドします。このボックス・イン・ボックスは、外側のシールドがグラウンドまで駆動され、内側のシールドがガードとともに駆動されるので効果的です。カーディングとシールディングの詳細については、ADA4530-1 データシートを参照してください。
ADA4530-1R-EBZ には、出力負荷をアンプの出力から分離し、過度な容量性負荷による発振を防止する499 Ω の出力抵抗もあらかじめ取り付けられています。
このアプリケーション・ノートでは、IB+ は DUT の非反転ピンを流れる入力バイアス電流を表し、IB− は DUT の反転ピンを流れる入力バイアス電流を表します。IB は、IB+ と IB− の両方を表します。
ここでは、ADA4530-1R-EBZ で実行可能な入力バイアス電流の測定方法について説明します。
KEITHLEY 6430 を使用した測定
25 °C でのADA4530-1 の代表的な入力バイアス電流は1 fA 未満で、市販の電位計ではこの超低電流を正確に測定することはできません。例えば、1 pA レンジでのKeithley 6430 SourceMeter®のオフセット電流は7 fA に制限されています。このため、IB を測定するにはDUT を加熱して測定可能な値まで入力バイアス電流を増やす必要があります。データシートの仕様によれば、125 °C でIB は ±250 fA max に達し、測定可能になります。
IB+ のテストの目的で、ADA4530-1R-EBZ-BUF を高温チャンバーに入れます。IB+ を測定するには、3 軸ケーブルを使用してADA4530-1 の非反転ピンをKeithley 6430 SourceMeter に直接接続します(J1 を通じて)。3 軸ケーブルの詳細については、ADA4530-1 データシートを参照してください。
簡略化した回路図については、図4 を参照してください。使用したSourceMeter については、図5 を参照してください。
図 4. Keithley 6430 SourceMeter を使用したIB+測定の簡略化した回路図
図 5. Keithley 6430 SourceMeter
測定テストのセットアップ手順は、以下のとおりです。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF を 使 用します。SHIELD1 とSHIELD3 が閉じていることを確認します。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF を金属ボックスに入れます(図6 を参照)。
- 金属ボックスの蓋を閉めて、ADA4530-1R-EBZ-BUF を高温チャンバーに入れます。
- 耐熱温度が125 °C の3 軸ケーブルを使用して、入力3 軸コネクタ(J1)をKeithley 6430 Remote PreAmp のIN/OUTポートに接続します。多くの3 軸ケーブルの耐熱温度は85 °C です。125 °C の3 軸ケーブルは、Harbour Industries M17/131-RG403 TRX ケーブルとPomona Electronics のModel 5218 の3 軸コネクタを使用して作成できます。
- 高温チャンバーを125 °C に設定します。Keithley 6430Remote PreAmp またはSourceMeter を高温チャンバーに入れないでください。
- 高温チャンバーが125 °C に達したら、評価ボードを1 時間浸漬します。
図 6. ADA4530-1R-EBZ-BUF を囲んでいる金属ボックス(信号グラウンドに接続)
Keithley 6430 SourceMeter を使用してADA4530-1 の IB+ を測定するテスト手順を以下に示します。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF に、以下の電圧を供給します。
a. V+ (J3): 5 V
b. GND (J4): 0 V
c. V− (J5): -5 V - Keithley 6430 SourceMeter のテスト設定を以下に示します。
a. オート・レンジ: オフ
b. ソース電圧(V): 0 V
c. 測定電流(I): 電流範囲を1 pA に設定
d. 電力線サイクルの数(NPLC): 1(標準測度)
e. フィルタ: オート - 1 SPS(サンプル/秒)で300 秒の測定データを記録し、平均IB+ を計算します。測定期間が長いほど、より正確な平均値が得られます。平均IB+ は 100 fA より小さくする必要があります。
図 7 に、1 つの代表的なDUT を5000 秒測定して得られたデータを示します。測定されたIB+ の平均値は125 °C で11 fA ~ 12fA です。125 °C での代表的な入力バイアス電流はデバイスごとに異なります。ADA4530-1R-EBZ-BUF では、ほとんどのDUTの測定値が100 fA になることが期待されます。
図 7. 非反転入力バイアス電流(IB+)と時間の関係
容量性積分測定
コンデンサを流れる電流(IC)は、以下の式を使用して、容量値(C)と時間に対するコンデンサ両端の出力電圧の測定された変化値(dVC/dt)を使用して計算できます。
この関係は、DUT の入力容量を充電する速度に基づいてIB+ を計算する際に使用できます。非反転入力が接続されていない状態のバッファ構成でDUT の出力を測定して、入力容量の充電を監視します。
IB+ を計算するには、以下の式を使用します。
ここで
CP は入力容量。
dVOUT/dt は、時間に対するアンプの出力電圧の変化。
図 8 に、容量性積分法の簡略化した回路図を示します。
図 8. 容量性積分法の簡略化した回路図
Keithley 6430 Measurement のセクションで説明した測定方法と同じように、ADA4530-1R-EBZ-BUF を高温チャンバーに入れます。高温チャンバーの外部にあるテスト・ボックスに接続された3 軸ケーブル/コネクタを使用してDUT の非反転入力に接続します(図9 を参照)。テスト・ボックスには、非反転入力信号、ガード、および信号グラウンド電位に接続されている3軸コネクタが含まれています(図10 を参照)。これにより、DUT の非反転入力ピンを高温チャンバー外部のグラウンドに短絡することができます。
図 9. 容量性積分測定法
図 10. テスト・ボックスと3 同軸コネクタ
DUT の出力電圧の上昇率から入力バイアス電流を計算するには、入力容量値が既知であることが前提です。このため、DUT、基板、パターン、および3 軸ケーブル/コネクタから成る合計入力容量(CP)を測定する必要があります。ただし、入力容量は非常に低いため、測定が困難です。CP の値を相互チェックする方法として、入力の直列抵抗を使用する方法と入力テスト・コンデンサを使用する方法が推奨されます。
入力の直列抵抗を使用した合計入力容量の測定
この方法では、既知の抵抗と入力容量の間の相互関係から作成された極の周波数を測定することで合計入力容量を計算します。
測定ガイドラインは、以下のとおりです。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF を使用します。JP3 を使用して、ADA4530-1R-EBZ-BUF で 3 軸のガードをアンプのガードに短絡させます。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF を金属ボックスに入れます。3 軸ケーブル/コネクタを使用してADA4530-1R-EBZ-BUF をテスト・ボックスに接続します(図9 を参照)。
- 入力直列抵抗RS を通じて、テスト・ボックスの入力ピンにファンクション・ジェネレータを接続し、ADA4530-1R-EBZ-BUF の出力にオシロスコープを接続します(図11 を参照)。
- 入力の直列抵抗RS を短絡させます。
- ファンクション・ジェネレータを使用して、1 kHz、1 Vp-pの入力サイン波を流します。
- オシロスコープを使用してVOUT = VIN であることを確認します。
- RS の短絡を取り外します。RS には、8 MΩ の抵抗を使用します。浮遊容量を小さくするには、1 つの大きな抵抗を使用するのではなく、複数の抵抗を直列で使用します。この場合、4 つの2 MΩ 抵抗を直列にハンダ付けします。
- 出力が 1/√2 に下がるまで、入力信号周波数をゆっくりと増やします。この周波数では、−3 dB での入力信号周波数を求めるには、以下の式を使用します。
つまり、以下のようになります。
図 11. 入力直列抵抗を使用した合計入力容量の測定
入力テスト・コンデンサを使用した合計入力容量の測定
この方法では、入力容量と既知の容量から作成された分圧器を使用して、入力電圧の減衰を測定することで合計入力容量を計算します。
測定ガイドラインは、以下のとおりです。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF を使用します。JP3 を使用して、ADA4530-1R-EBZ-BUF で 3 軸のガードをアンプのガードに短絡させます。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF を金属ボックスに入れます。3 軸ケーブル/コネクタを使用してADA4530-1R-EBZ-BUF をテスト・ボックスに接続します(図9 を参照)。
- 既知の値の容量CTEST を入力ピンに配置します。10 pF テスト容量を使用します。CTEST を通して、テスト・ボックスの入力ピンにファンクション・ジェネレータを接続し、ADA4530-1R-EBZ-BUF の出力にオシロスコープを接続します。図12 を参照。
- ファンクション・ジェネレータを使用して、1 kHz、1 Vp-pの入力サイン波を流します。
- オシロスコープを使用して、ピークto ピーク出力電圧を測定します。
- 入出力伝達関数は、以下のようになります。
つまり、以下のようになります。
図 12. 入力テスト・コンデンサを使用した合計入力容量の測定
既知の入力容量を使用したIB+ の測定
2 つの入力容量測定方法では、ADA4530-1R-EBZ-BUF の測定された入力寄生容量は平均で約2 pF でした。この容量値は、データシートに記載されているアンプの仕様よりも小さく、使用した3 軸ケーブルの長さを考慮すると低い値です。内部ガード・バッファは、物理容量の大半をブートストラップするので、実効入力容量値が大幅に低減します。
既知の入力容量を使用することで、DUT の出力電圧の上昇率を測定してIB+ を計算できます。
この容量性積分法の簡略化した回路図については、図8 を参照してください。
テスト測定のセットアップ手順は、以下のとおりです。
- ADA4530-1R-EBZ-BUFを使用します。SHIELD1 とSHIELD3 が閉じていることを確認します。
- JP3 を使用して、ADA4530-1R-EBZ-BUF で 3 軸のガードをアンプのガードに短絡させます。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF を金属ボックスに入れます(図9 を参照)。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF が入っている金属ボックスを高温チャンバーに入れます。
- 入力 3 軸コネクタ(J1)をテスト・ボックスに接続します(図8 を参照)。耐熱温度が125 °C の3 軸ケーブルを使用します。多くの3 軸ケーブルの耐熱温度は85 °C です。125 °C の3 軸 ケ ー ブ ルは、Harbour IndustriesM17/131-RG403 TRX ケーブルとPomona Electronics のModel 5218 の3 軸コネクタを使用して作成できます。
- 出力 BNC コネクタまたは出力端子ブロック経由で、基板の出力をマルチメータに接続します。ここでは、データ・ロギングをサポートしている5.5 桁~ 6.5 桁のマルチメータを使用しました。
- 高温チャンバーを125 °C に設定します。
- 高温チャンバーが125 °C に達したら、ADA4530-1R-EBZ-BUF を1 時間かけて浸漬します。
容量性積分測定法を使用してADA4530-1 の IB+ を測定するためのテスト手順は、以下のとおりです。
- ADA4530-1R-EBZ-BUF に、以下の電圧を供給します。
a. V+ (J3): 5 V
b. GND (J4): 0 V
c. V− (J5): -5 V - Keithley 2000 を以下のテスト・セットアップに設定します。
a. オート・レンジ: オフ
b. カスタム・レンジ: 10 V
c. 時間遅延: 1 ms
d. 測定遅延: 1 s
e. NPLC: 1(標準速度) - テスト・ボックスを使用して、DUT の非反転入力を信号グラウンドに約10 秒間短絡させます。
- グラウンドへの短絡を取り外して、非反転ピンを未接続のままにしておきます。
- 入力容量の両端を流れる容量性電流(ICAP)がDUT 出力電圧の変化として現れます。
- マルチメータを使用して、1 SPS で300 秒にわたって出力電圧を記録します。
図 13 に基板の出力電圧と時間の関係を示し、図14 に容量性電流と時間の関係を示します。
図 13. 出力電圧と時間の関係
図 14. 容量性電流と時間の関係
図 13 を参照してください。0 ~ 10 秒は、非反転入力がグラウンドに短絡されています。このため、最初の10 秒間にわたり、出力電圧は0 V 付近になります。非反転入力をグラウンドから接続解除すると、出力電圧が急激に変化します。これは手動による接続解除であるため、指からの振動や充電が入力に結合され、10 秒のところに示されているように出力電圧スパイクが発生することがあります。リレーは、小さい絶縁抵抗が存在するので、入力ピンの短絡や解放には使用しません。仮に小さい絶縁抵抗が存在するリレーを使用すると、非反転入力の合計抵抗が実質的に減少するため、測定精度が損なわれます。絶縁抵抗の詳細については、ADA4530-1 データシートを参照してください。
非反転入力を未接続にした直後に、入力バイアス電流(IB+)が入力寄生容量を流れ、出力電圧が変化します。非反転ピンをグラウンドから接続解除した直後に容量性電流を測定します(図14 を参照)。これは、この短い期間に容量性電流(ICAP)がIB+に近い値になるためです。非反転入力電圧が高くなるに従い、基板上の寄生抵抗(IRES)を流れるリーク電流が大きくなります。このため、出力電圧の変化はIRES と ICAP の関数になります(図15 を参照)。
また、入力バイアス電流は、入力コモンモード電圧範囲の全体で一定ではありません(ADA4530-1 データシートの入力バイアス電流と入力コモンモード電圧の関係のグラフを参照)。この変動は、積分の傾斜が変化する原因となります(図14 を参照)。出力電圧は、入力バイアス電流が入力コモンモード電圧をRP で除算した値と等しくなると上昇を停止します(図13 を参照)。入力バイアス電流がゼロに近い場合、入力コモンモード電圧範囲外でこの状態が発生します。
低温ではADA4530-1 の入力バイアス電流は超低レベルになり、誘電緩和はこの方法の精度を制限する追加の誤差となります。これらの誘電緩和電流は、実際のバイアス電流よりも大きくなることがあります。このため、入力バイアス電流が誘電降下を支配する125 °C の高い温度で、この方法による測定を実行します。誘電緩和の詳細については、ADA4530-1 データシートを参照してください。
容量性積分法で、125 °C における入力バイアス電流の測定値は100 fA 未満になります。
図 15. 入力バイアス電流を測定する際に使用した基板の入力寄生容量
ΔVOUT(2 つのテスト出力電圧)の測定
このアプリケーション・ノートで説明した最初の2 つの測定法では、評価ボードを125 °C に加熱して入力バイアス電流を測定可能なレベルに増やす必要がありました。このΔVOUT 測定法では、高温チャンバーなしで、IB+(またはIB−)を室温で測定できます。このΔVOUT 法では、入力バイアス電流を測定するため、2 つのテストを行う必要があります。最初のテストではVOUT1 を測定します。これは、ADA4530-1R-EBZ のベースライン・オフセット電圧に対応します。2 番目のテストではVOUT2 を測定します。これは、ベースライン・オフセット電圧と帰還または入力直列抵抗を流れるIB− またはIB+ によって生じる電圧降下の合計です。IB− の測定にはADA4530-1R-EBZ-TIA を使用し、IB+ の測定にはADA4530-1R-EBZ-BUF を使用します。
IB− の測定
図 16 に、ADA4530-1R-EBZ-TIA を使用したIB− の測定回路を示します。DUT はトランスインピーダンス構成を備え、8.5 桁マルチメータであるKeysight 3458A を使用してオフセット電圧を測定しました。ギガオーム(GΩ)またはテラオーム(TΩ)の大きな値の帰還抵抗を使用すれば、測定可能な出力電圧が得られます。例えば、ADA4530-1 の特性評価には、1 TΩ(TΩ = 1012Ω)の抵抗を使用しています。この結果fA あたり1 mV の感度を実現できます。
ADA4530-1R-EBZ-TIA には、RF1 に 10 GΩ SMT 抵抗が取り付けられています。帰還抵抗はIB− を出力電圧(VOUT)に変換します。この値は以下の式で求められます。
VOUT = IB− × 帰還抵抗
図 16.IB− 測定回路
まず、帰還抵抗を短絡させ、バッファ構成でDUT の出力電圧(VOUT1)を測定して、ADA4530-1R-EBZ-TIA のベースライン・オフセット電圧を決定します。その後、短絡を取り外して、帰還抵抗がある状態で出力電圧を測定します。帰還抵抗はIB− を測定可能な出力電圧に変換します。VOUT2 は、ベースライン・オフセット電圧と帰還抵抗を流れるIB− によって生じる電圧降下の合計です。
以下の式でIB− を計算します。
テスト測定のセットアップ手順は、以下のとおりです。
- ADA4530-1R-EBZ-TIA を使用します。
- SHIELD1 カバーを取り外します。P7 とVOUT ピン・ソケットを使用して帰還抵抗(RF1)を短絡させます。
- ADA4530-1R-EBZ-TIA を金属ボックスに入れます。
- ADA4530-1R-EBZ-TIA の出力をKeysight 3458A マルチメータに接続します。.
IB− を測定するためのステップごとのテスト手順は、以下のとおりです。
- ADA4530-1R-EBZ-TIA に、以下の電圧を供給します。
a. V+ (J3): +5 V
b. GND (J4): 0 V
c. V− (J5): −5 V - Agilent 3458A を以下のテスト・セットアップに設定します。
a. オート・レンジ: オフ
b. マニュアル・レンジ: 0.1 V
c. NPLC: 10 - 出力電圧を測定します。結果を記録して、平均出力電圧(VOUT1)を計算します。測定期間が長いほど、より正確な平均値が得られます。60 秒以上のテストを実施すると、あらゆるウォームアップ効果に対応できます。
- ADA4530-1R-EBZ-TIA への供給をオフにします。
- 短絡を取り外します。デフォルトでは、RF1 に 10 GΩ の帰還抵抗があるトランスインピーダンス構成になっていることが期待されます。
- SHIELD1 にカバーを取り付けます。
- 出力電圧を測定します(基板のオフセット電圧と帰還抵抗を流れるIB− による電圧降下の合計)。結果を記録して、平均出力電圧(VOUT2)を計算します。推奨されるテスト時間は300 秒です。平均化により、抵抗のノイズが低下します。10 GΩ の抵抗は、約12.8 μV/√Hz の熱ノイズを発生します。300 秒のデータでは、内蔵抵抗の合計ノイズは約6 μV p-p になります。これは、約0.6 fA の測定誤差に等しい値です。平均回数が多くなると、低周波数1/f ノイズの増加により収穫逓減になります。
- 入力バイアス電流の計算には、以下の式を使用します。
- 手順 8 の式は、帰還抵抗値が正確にわかっていると仮定しています。既知のテスト電流をADA4530-1R-EBZ-TIAに供給して出力電圧を測定することで、この仮定を検証します。Keithley 6430 SourceMeter を使用して、J1 経由でDUTの反転ピンに250 pA を供給しました。出力は以下のようになります。
250 pA × 10 GΩ = 2.5 V
出力電圧の期待値からの偏差は、帰還抵抗の許容誤差によって発生します。あらかじめ取り付けられている10 GΩ抵抗RF1 の許容誤差は10 % です。
図 17 と図18 に、サンプル・ユニットの300 秒間のVOUT1 とVOUT2に加え、関係のある平均値を示します。図19 に、計算したIB−を示します。図20 に測定した帰還抵抗値RF1 の平均を示します。抵抗値は10 % の許容誤差内に収まっています。
図 17. VOUT1 と時間の関係
図 18. VOUT2 と時間の関係
図 19. IB− と時間の関係
図 20. 測定した帰還抵抗(RF1)と時間の関係
この測定方法は、大きな値の帰還抵抗でも実行できます。通常、これらの大きな値の抵抗には、ガラス封入のハーメチック・シールが施されていて、大きなフットプリントが採用されています。大きい値の帰還抵抗を使用すると、出力で優れたS/N 比を得られ、より正確な測定が可能になります。ADA4530-1R-EBZ-TIAは、非常に高い抵抗で安定性の高いハーメチック・シールが施されたOhmite RX-1M などのスルーホール抵抗(RF2)を使用できるピン・ソケットを備えています。これらの値の大きなスルーホール抵抗を使用する場合、ADA4530-1R-EBZ-TIA にあらかじめ取り付けられているRF1 を取り外します。再加工した後は、Cleaning and Handling のセクションの説明に従ってADA4530-1R-EBZ-TIA をクリーニングしてから測定を実施します。P7 とVOUT ピン・ソケットの間に大きなスルーホール抵抗を挿入して、このセクションで説明している手順と同じ方法を繰り返してIB− を測定します。使用する抵抗に応じて、手順9でDUT に供給する電流の大きさを変更します。
IB+ の測定
IB+ の測定にはADA4530-1R-EBZ-BUF を使用します。この測定方法は、IB−Measurement のセクションで説明した測定方法とほぼ同じです。IB+ 測定回路については、図21 を参照してください。入力直列抵抗はIB+ を J2 での出力電圧(VOUT)に変換します。この値は以下の式で求められます。
VOUT = IB+ × 入力直列抵抗
図 21. IB+ 測定回路
DUT の非反転ピンをグラウンドに短絡させて、ADA4530-1R-EBZ-TIAのベースライン・オフセット電圧を決定します。これを行うには、P7 からP4(GND)ピン・ソケットにワイヤを接続します。ベースライン・オフセット電圧はVOUT1 です。短絡を取り外して、入力直列抵抗がある状態で出力電圧を測定します。1206 または1210 パッケージ・サイズのSMT 抵抗をRS1 に取り付けることができます。または、P7 からP4(GND)ピン・ソケットに値の大きいスルーホール抵抗を接続します。入力直列抵抗はIB+ を測定可能な出力電圧に変換します。VOUT2 は、ベースライン・オフセット電圧と入力直列抵抗を流れるIB+ によって生じる電圧降下の合計です。以下の式でIB+ を計算します。
結論
ADA4530-1 は、フェムトアンペア・レベルの入力バイアス電流を実現した電位計グレードのアンプです。このアプリケーション・ノートでは、フェムトアンペア・レベルの入力バイアス電流を測定するため、次の3 つの方法について説明しました。Keithley 6430 による測定、容量性積分測定、およびΔVOUT(2 つのテスト出力電圧)の測定。
- Kei thley 6430 による測定方法は、Kei thley 6430SourceMeter を使用してIB+ を直接測定する方法です。このテスト方法では、入力バイアス電流の測定に、1 台の校正済み装置のみを使用します。ただし、DUT の入力バイアス電流は非常に低いため(< 1 fA)、室温でIB を正確に測定することは不可能です。DUT を加熱して、測定可能な値までIB を増やす必要があります。このため、この方法では高温チャンバー、耐熱温度125 °C の3 軸ケーブル、Keithley 6430 SourceMeter が必要です。単純な直接測定の見返りとしてセットアップ・コストは高くなります。
- 容量性積分法では、既知の入力容量で時間に対するアンプの出力電圧の変化を測定してIB を計算します。この測定は、ハイエンドのソース・メジャー・ユニット(SMU)なしで実行できます。出力電圧を監視するためのマルチメータのみが必要です。ただし、セットアップには時間がかかります。入力バイアス電流を計算するには、合計入力容量値がわかっている必要があります。このため、統合試験の前に入力容量を測定する必要があります。この測定方法では、小さい絶縁抵抗が存在するリレーを使用しないで済むようにワイヤを手動で接続解除する必要があります。また、DUT を加熱して測定可能なレベルまでIB を増加させるため、高温チャンバーが必要です。また、入力コモンモード電圧全体にわたってIB を一定にする必要があります。容量性積分測定法でIB を計算できる時間は非常に短いです。
- ΔVOUT(2 つのテスト出力電圧)測定法では、2 つのテストを実行して入力バイアス電流を測定する必要があります。最初のテストではVOUT1 を測定します。これは、ADA4530-1R-EBZ のベースライン・オフセット電圧に対応します。2 番目のテストではVOUT2 を測定します。これは、ベースライン・オフセット電圧と帰還抵抗または入力直列抵抗を流れるIB− またはIB+ によって生じる電圧降下の合計です。セットアップには時間がかからず、コストもかかりません。ADA4530-1R-EBZ-TIAには 10 GΩ 抵抗があらかじめ取り付けられていて、マルチメータで測定値を取得できます。ただし、より正確な測定を行うには、値の大きな帰還抵抗または入力直列抵抗を使用する必要があります。通常、これらの値の大きな抵抗は、ガラス封入のハーメチック・シールで密閉されていて、高い精度と安定性を実現できます。その代わり、コストは比較的高くなります。これらの抵抗は、非常に高い清浄度が求められ、特別なクリーニング手順に従う必要があります。また、汚染しないように取り扱うには、必ず端子を持つ必要があります。
ADA4530-1 の詳細については、ADA4530-1 データシートおよびADA4530-1R-EBZ ユーザー・ガイドUG-865 を参照してください。