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AN-1360: ADGM1304 および ADGM1004 は試験用計測器のチャンネル密度と試験機能をどのように向上させるか
はじめに
このアプリケーション・ノートでは、ADGM1304 およびADGM1004 マイクロマシン(MEMS)スイッチと、これらのスイッチが試験装置アプリケーション、特に自動試験装置(ATE)アプリケーションにもたらすメリットについて説明します。MEMS スイッチは、RF リレーと比較して、サイズ上のメリット、広帯域の無線周波数(RF)性能、高精度の DC/0 Hz 性能、そして機械的な動作寿命が長いというメリットを有しています。これらは ATE アプリケーションにおいて重要なものです。
ここでは、基板面積の削減と性能向上の観点から、どこにMEMS スイッチを使用できるか、そして一般的に使用されている RF リレーに比べて MEMS スイッチが有用な場所はどこかを代表的なシグナル・チェーンとブロック図で示します。また、このアプリケーション・ノートでは、試験装置に使用される標準的なリレーの性能と MEMS スイッチの性能を比較して説明します。
試験用計測器におけるスイッチング
背景
スイッチ機能は、あらゆる電子テスト用計測器において基本的で重要な機能です。テスト対象デバイス(DUT)がますます複雑さを増し、チャンネル/ピン数や機能も増えつつあるのに伴い、必要な試験の種類と回数も増加してきました。高精度の DC電圧および電流特性試験、ミックスド・シグナル試験、高周波デジタル試験、そして RF 試験のすべてが 1 つのデバイス評価で行われる可能性があります。そして、多くの場合、それらの試験は並行して行われます。特に自動試験装置(ATE)では 1 つのデバイス評価に数百回もの試験が必要となるため、試験のスピードが重要です。使用する試験の種類と信号が複雑になると、試験用ハードウェアのアーキテクチャとそれに使用するスイッチ機能にも影響が及びます。ATE 試験用計測器による代表的な試験セットアップの概略的なブロック図を図 1 に示します。これは一般的に見られるもので、デジタル・ピン・ドライバ、パラメトリック計測ユニット(PMU)、電源が、ATE 試験装置内の 1 枚の計測器試験カードに集積され関連し合ってスイッチングを行います。
補助的なスイッチング機能も試験装置の外部、特にデバイス・インターフェース・ボード(DIB、試験インターフェース・ユニット(TIU)と呼ばれることもある)上で必要とされることがあります。図 2 に、DUT の AC/RF 試験用にセットアップした DIB の機能およびスイッチ構成例を示します。ノイズ・フロアの最小化やプリント回路基板(PCB)の損失低減など、試験システムの性能向上に十分な柔軟性を持たせるため、多くの場合、DUT の試験ボードには信号のフィルタリング、アンプ、およびキャリブレーションで構成されたパスが必要となります。
使用するスイッチの種類は、試験に必要な信号の種類と性能で決まります。現在の試験装置とデバイス用 TIU 基板には、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)スイッチ、光 MOS スイッチ、リード・リレー、電子機械式リレー(EMR)スイッチ、ガリウム・ヒ素(GaAs)ベースの RF スイッチ、およびシリコン・オン・インシュレータ(SOI)ベースの RF スイッチが使用されています。
多くの高性能ソリッドステート・スイッチが ATE 試験装置に使用されていますが、PMU の DC 信号や高速のデジタル/RF 信号を最小限の信号損失と歪みで共通の試験用信号経路に印加しなければならない場合は、未だにサイズの大きな EMR が使用されています。このような試験条件は高性能電子デバイスの試験では一般的です。RF デバイスや高速のデジタル・デバイスでは、多くの場合、膨大な回数の高精度 DC 電圧および電流試験、高速デジタル・インターフェース試験、および RF 信号の送受信試験が行われています。PMU による高精度の試験は、一般的にDUT のリーク特性評価を目的に行われ、高速計測と組み合わせることでデバイス性能に関する重要な結果が得られます。高精度な試験と高速の試験に対する要求から、高性能 EMR の使用が加速されることになります。
しかし、EMR には制約もいくつかあります。制約には、大きい、動作が遅い、サイクル寿命がきわめて限られている、配線上の問題から PCB の設計が難しい、高出力の外部ドライバ回路が必要、リワークが難しい、などが挙げられます。使用する EMR が、大型かつ同軸コネクタ・タイプでモジュラー型のフォーム・ファクタを持つものでないとしても、EMR は帯域幅が限られているため、実現できるシステム性能とシステムのチャンネル数が大きく制約される可能性があります。
MEMS スイッチの利点
MEMS 技術
アナログ・デバイセズの MEMS スイッチは、EMR のメリットを非常に小型のフォーム・ファクタに集積するとともに、RF 性能とサイクル寿命を向上させています。MEMS スイッチ技術の詳細については、技術資料のアナログ・デバイセズの革新的MEMS スイッチ技術の基礎を参照してください。試験用計測器ではスイッチのサイズが非常に重要で、試験用計測ボードやDUT のインターフェース用 TIU ボードで実現可能な機能とチャンネル数がこれによって決まります。図 3 に、0 Hz/DC ~14 GHz、単極 4 投(SP4T)MEMS スイッチの ADGM1304 を、標準的な 3 GHz 帯域幅、2 極双投(DPDT)EMR の上に載せた状態で示します。体積にすると 90 % 以上のサイズ低減を達成できます。
MEMS 技術による物理的なサイズのメリットに加えて、このスイッチは電気的および機械的性能でも大きなメリットを有しています。表 1 に、ADGM1304 および ADGM1004 デバイスの主な仕様を、標準的な高周波、単極双投(SPDT)8 GHz EMR と比較して示します。ADGM1304 および ADGM1004 デバイスは、帯域幅、挿入損失、スイッチング時間に優れているとともに、10億サイクルのサイクル寿命を実現しています。高い帯域幅は、スイッチの用途を新しいアプリケーション領域に拡大する場合に重要です。電源を内蔵した低消費電力、低電圧のドライバを搭載していることも MEMS スイッチの重要な利点です。ADGM1004 は、人体モデル(HBM)で 2.5 kV、電界誘起帯電デバイス・モデル(FICDM)で 1.25 kV の高い静電放電(ESD)定格を備えており、使いやすさをさらに向上させています。
Switch Parameter | ADGM1304 MEMS | ADGM1004 MEMS | 8 GHz EMR (Typical) |
Switch Configuration | SP4T | SP4T | SPDT (1 Form C) |
Operational Frequency (3 dB) | 0 Hz/dc to 14 GHz | 0 Hz/dc to 13 GHz | 0 Hz (dc) to 8 GHz |
LFCSP Size | 4 mm × 5 mm × 0.95 mm | 4 mm × 5 mm × 1.45 mm | 8.0 mm × 9.4 mm (TO-5) |
On Resistance (RON) | 1.6 Ω (typical) | 1.8 Ω (typical) | 0.15 Ω (maximum) |
On Leakage | 5 nA | 5 nA | 5 nA |
Actuation Lifetime | 1 billion cycles (minimum) | 1 billion cycles (minimum) | 10 million cycles (typical) |
Switching Speed | 30 μs (typical) | 30 μs (typical) | 4 ms (maximum) |
Power Supply | 3.3 V (10 mW = 3.3 V x 2.9 mA), integrated driver | 3.3 V (10 mW = 3.3 V x 2.9 mA), integrated driver | 5 V (280 mW), external driver required |
Insertion Loss (IL) | 0.4 dB (typical) at 6 GHz | 0.6 dB (typical) at 6 GHz | 0.8 dB (typical) at 6 GHz |
Off Isolation | 24 dB (typical) at 2.5 GHz | 24 dB (typical) at 2.5 GHz | 27 dB (typical) at 3.0 GHz |
Power Rating | 36 dBm, ±6 V dc | 32 dBm, ±6 V dc | 1 Amp/28 V dc |
ESD Rating, RF Ports (HBM; FICDM) | 100V; 500V | 2.5 kV; 1.25 kV | Not specified |
図 4 に、ADGM1304 SP4T MEMS スイッチの挿入損失とオフ・アイソレーションを、試験用計測器で一般的に使用されているDPDT 3 GHz EMR と比較して示します。図 4 から、EMR よりMEMS スイッチのほうが信号帯域幅に優れていることがわかります。
MEMS スイッチのアプリケーション例
従来、ATE 試験装置で DC/RF スイッチ機能を実現するためには EMR スイッチは欠かせないものです。しかし、リレーを使用すると、以下の問題のためにシステム性能が制限されることがあります。
- リレー・スイッチのサイズが大きく、設計ルールに禁止エリアを設けなければならないため、非常に大きな面積が必要で試験の拡張性に欠ける。
- リレーのサイクル寿命が限られており、通常は数百万 ~ 数千万サイクルしかない。
- 所望のスイッチ構成を実現するには、複数のリレーをカスケード接続する必要がある(例えば、SP4T 構成には 3 個のSPDT リレーが必要)。
- PCB 実装の問題として、多くの場合、リレーを使用するとPCB のリワーク率が高くなる。
- 配線の制約とリレー性能の限界により、完全な帯域幅性能を実現するのが非常に困難な場合がある。
- リレーの動作速度がミリ秒単位と遅いため、試験のスピードが制限される。
図 5 から図 7 に、ATE アプリケーションにおいて MEMS スイッチがどのようにこれらの制約に対処し、価値を高めることができるかを示します。EMR スイッチを使用した場合と ADGM1304または ADGM1004 MEMS スイッチを使用した場合の、代表的なDC/RF スイッチのファンアウト・アプリケーションの回路図を図 5 と図 6 に示します。図 7 に、この 2 つの回路図から作製したデモ用 PCB の写真を示します。このデモ用 PCB では、ファンアウトによる 16:1 のマルチプレクサ機能が使用されています。図 5 で使用するリレーは DPDT EMR リレーです。18:1 のマルチプレクサ機能を実現するには、9 個の DPDT リレーと 1 個のリレー・ドライバ IC が必要です(8 個の DPDT リレーでは 14:1 のマルチプレクサ機能しか得られません)。物理的なリレー・ソリューションを図 7 の基板の左側に示します。この写真から、リレー・ソリューションが大きな面積を占めること、対称性のある配置で実装するのが難しいこと、そしてドライバ IC が必要であることがわかります。
図 6 と、図 7 の基板の右側に、同様のファンアウト・スイッチ機能をわずか 5 個の ADGM1304 または ADGM1004 SP4T MEMSスイッチによって簡略化したものを示します。この 2 つの図から、スイッチ機能が占める PCB 面積と配線の複雑さが低減していることがわかります。x-y 面積にして 68 % 以上、体積にすると 95 % 以上の削減が可能です。ADGM1304 および ADGM1004 MEMS スイッチには独立にスイッチを制御できる低電圧ドライバが内蔵されているため、外部ドライバ IC は不要です。MEMSスイッチはパッケージの高さが低いため(ADGM1304 が 0.95mm、ADGM1004 が 1.45 mm)、スイッチを PCB の裏面にも実装できます。これにより、チャンネル密度をさらに向上させることが可能です。
図 8 に試験装置におけるスイッチの使用例をもう 1 つ示します。この図は、高速または RF DUT に接続する試験用インターフェースのスイッチに EMR を使用した場合の、代表的な回路図を示しています。この場合、電子デバイスを評価するために高速のRF 信号とデジタル/DC 信号の両方が必要です。
図 8 では、スイッチ・ソリューションとしてリレーを使用しています。バンドパス・フィルタの選択、デジタル信号のルーティング、DC のパラメトリック試験機能を実現するには、14 個の SPDT リレーが必要です。リレーは、カスケード接続しなければなりません。
MEMS スイッチを使用した等価なソリューションを図 9 に示します。図 9 は、MEMS スイッチを使用することで試験インターフェースの設計の簡略化と機能向上が実現できることを表しています。この設計は、わずか 6 個の ADGM1304/ADGM1004 しか必要としないため、
配線の複雑さと基板面積を大幅に削減できます。ADGM1304 と ADGM1004 スイッチは SP4T 構成のため、デジタル/DC パラメトリック試験機能にリレーを使用した場合に 4 チャンネルになるのに対して、MEMS スイッチでは 8 チャンネルを確保できます。これにより、全体でより多くの機能チャンネルが得られます。14 GHz の広帯域幅、0 Hz/DC 動作、小型パッケージ・サイズ、そして低電圧制御が可能なこの MEMSスイッチは、高い柔軟性、長いサイクル寿命、小面積のスイッチ・ソリューションを可能にするとともに、高精度かつ高速のデジタル信号ルーティングと広帯域 RF 信号ルーティングを同時に実行できます。
まとめ
デバイスの複雑さが増し、試験条件が拡大したため、ATE ソリューションの性能およびスペース効率の最適化が困難になっています。スイッチは、DC/デジタルおよび RF 機能が要求される今日のあらゆる ATE 試験ソリューションにおいて不可欠な部品です。アナログ・デバイセズの MEMS スイッチ技術は、試験機能および性能の向上と、従来の RF リレー・ソリューションに比べて小さい PCB 面積を実現できる独自の技術です。ADGM1304 および ADGM1004 は高精度 DC 性能と広帯域 RF 性能を備えた SP4T MEMS スイッチで、小型の SMD パッケージに収容されており、低い駆動電力条件、長いサイクル寿命、高 ESD 耐性を可能にします。これらの機能により、アナログ・デバイセズの MEMS スイッチ技術はあらゆる最新 ATE 装置に最適な汎用スイッチ・ソリューションとなっています。
参考資料
Analog Devices Makes MEMS Switch Technology a Commercial Reality. Analog Devices Product Highlight. 2017.
Carty, Eric. アナログ・デバイセズが実現した MEMS ベースの RF スイッチ技術 Video. Analog Devices. 2016.
Carty, Eric and McDaid, Padraig. 革新的な 5 KV ESD MEMS スイッチ技術 Technical Article. Analog Devices. 2017.
Carty, Eric, Fitzgerald, Padraig, and McDaid, Padraig. アナログ・デバイセズの革新的 MEMS スイッチ技術の基礎 Technical Article. Analog Devices. 2016.