アプリケーション・ノート使用上の注意

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なお、日本語版のアプリケーションノートは基本的に「Rev.0」(リビジョン0)で作成されています。

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アプリケーション・ノート使用上の注意

AN-1352: ADA4571 の校正手順

はじめに

ADA4571 は、検出素子とコンディショニング・アナログ計装アンプで構成されるアナログ異方性磁気抵抗(AMR)角度センサーです。このアプリケーション・ノートでは、センサーの角度直線性誤差を軽減するために用いられる各種の簡単な校正手順について説明します。AMR 角度センサー素子は、2 つの抵抗ホイートストン・ブリッジで構成されています。それぞれのホイートストン・ブリッジは、センサー内では互いに完全に独立しています。抵抗にはわずかなプロセス変動によって不整合が生じます。これらの不整合は2 つのブリッジ間の電気的なオフセットや振幅変動として現れます。AMR センサーによって最も正確な結果を得るには、簡単な校正ルーチンを実行することが重要です。

Figure 1. Typical Measurement Configuration for an AMR Angle Sensor. 図 1. AMR 角度センサー測定の代表的構成設定
図 1. AMR 角度センサー測定の代表的構成設定

ADA4571 の校正

1 点法によるADA4571 の完成時(EOL)校正手順


ゲイン制御(GC)モードを有効にした場合と無効にした場合の室温校正によって得られる標準的精度の温度特性を図2 と図3 に示します。

Figure 2. Angular Error over Temperature After Calibration at Room Temperature, GC Enabled. 図 2. 室温での校正後に得られる角度誤差の温度特性(GC 有効時)
図 2. 室温での校正後に得られる角度誤差の温度特性(GC 有効時)
Figure 3. Angular Error over Temperature After Calibration at Room Temperature, GC Disabled. 図 3. 室温での校正後に得られる角度誤差の温度特性(GC 無効時)
図 3. 室温での校正後に得られる角度誤差の温度特性(GC 無効時)

ADA4571 のAMR磁場角度に関連する出力電圧は、VSINとVCOSの2 つです。以下の式は、VDD/2 を基準とした場合の、磁場の回転全体を通してのこれら2 つの出力を表わします。

VSIN = AS × sin(2 × α + θS) + OS

ここで、

AS はVSIN の振幅
α は現時点の磁場角度
θS はVSIN の位相
OS VSINのオフセット

VCOS = AC × cos(2 × α + θC) + OC

ここで、

ACVCOS の振幅
α は現時点の磁場角度
θCVCOS の位相
OCVCOS のオフセット

代表的な出力信号を図4 に示します。

Figure 4. Typical Output Signals over a Single Mechanical Revolution. 図 4. 機械的回転に対する代表的な出力信号
図 4. 機械的回転に対する代表的な出力信号

VSINチャンネルとVCOSチャンネル間の振幅不整合(k)は製造時にテストされ、仕様は最大±1%と規定されています。ただし、通常、これらの不整合はこれよりはるかに低い値です。サンプル・デバイスにおける振幅不整合の分布を図5 に示します。

Figure 5. Sample Test Distribution of Sine/Cosine Amplitude Mismatch. 図 5. サンプル・テストにおける正弦/余弦振幅不整合の分布
図 5. サンプル・テストにおける正弦/余弦振幅不整合の分布

振幅不整合による理論的誤差量を図6 に示します。

Figure 6. Theoretical Error Contribution due to Amplitude Mismatch of Sine/Cosine Outputs. 図 6. 正弦/余弦出力の振幅不整合による理論的誤差量
図 6. 正弦/余弦出力の振幅不整合による理論的誤差量

通常、この誤差はシステム内の他の誤差よりはるかに小さい値です。さらに、振幅不整合を補正しようとして計算ミスをすると、システムに新たな誤差が生じる結果となります。したがって、振幅不整合の補正は行いません。

VSINチャンネルとVCOS チャンネル間の直交性誤差は最大0.05°と規定されていますが、通常はこれよりはるかに小さい値です。したがって直交性誤差による誤差量は無視し得る程度のものなので、これも無視します。

それぞれのチャンネルの振幅不整合と位相誤差を無視すると、計算式は以下のように簡略化できます。

VSIN = A × sin(2 × α) + OS

ここで、A は正弦チャンネルと余弦チャンネルの振幅です。

VCOS = A × cos(2 × α) + OC

最終的な角度に対する主要な誤差要因として残るのはオフセットだけです。


ADA4571 の1 温度校正


360°の全回転範囲にわたるデバイスの校正は、以下の手順で行います。また、以下のルーチンは、可能であれば最終的なアプリケーション温度にできるだけ近い温度で行ってください。

  1. デバイスの VSIN 出力とVCOS 出力をモニタしながら、磁気的刺激を両方向に360°回転させます。
  2. VSIN とVCOS のオフセットを個別に計算します。オフセットは、下の式により、それぞれの出力の最大値および最小値、あるいは平均を使用して計算します。

数式 01

最終角度

最終的な角度はarctangent2 関数を使用して計算します。

数式 02

得られる結果は、360°の磁気的回転ごとに2 回繰り返されます(図7 参照)。これがAMR技術の機能です。

Figure 7. Calculated Angle over an Entire Mechanical Revolution. 図 7. 360°の機械的回転に対する計算角度
図 7. 360°の機械的回転に対する計算角度

ADA4571 の2 温度EOL 校正


広い温度範囲にわたってさらにデバイスの誤差を減らすには、2温度EOL 校正を行います。被試験デバイス(DUT)の温度モニタには、内蔵温度センサーを使用します。

2 温度校正手順ではADA4571 に組み込まれた温度センサーを使用するので、高精度の温度強制システムを使用したり、他の温度モニタリング装置を操作したりする必要はありません。システムがエンド・アプリケーションの動作温度範囲より高い温度や低い温度になる可能性がある場合は、このタイプの校正が適しています。

1 点校正法実施後のADA4571 のオフセット・ドリフトによる残留オフセットに対する正弦出力と余弦出力両方の代表的データを図8 に示します。2 温度校正手順については、このデータ・セットを調べました。

Figure 8. Sine and Cosine Remaining Offset After a Single Point Calibration at 25°C. 図 8. 25℃での1 点校正後の正弦および余弦残留オフセット
図 8. 25℃での1 点校正後の正弦および余弦残留オフセット

室温での 1 点校正法では、このデバイスは標準的な角度誤差を示します(図3 参照)。しかし、2 温度校正を行なえば全温度範囲にわたって精度が向上します。

いくつかの異なる設定温度で2 点校正を行った後のADA4571 の残留オフセットを、図9、図10、および図11 に示します。これらの温度が変わると、残留オフセットのプロファイルも変ります。オフセット・ドリフトの影響を減らすには、最終アプリケーションの動作温度範囲のほぼ全域にまたがる2 つの校正温度を選ぶのが最善の方法です。全温度範囲にわたる残留オフセットが小さくなれば、それだけ角度計算の精度が向上します。

Figure 9. Sine and Cosine Remaining Offset After a Two-Point Calibration at 0°C and 110°C. 図 9. 0℃および110℃での2 点校正後の正弦および余弦残留オフセット
図 9. 0℃および110℃での2 点校正後の正弦および余弦残留オフセット
Figure 10. Sine and Cosine Remaining Offset After a Two-Point Calibration at 20°C and 80°C. 図 10. 20℃および80℃での2 点校正後の正弦および余弦残留オフセット
図 10. 20℃および80℃での2 点校正後の正弦および余弦残留オフセット
Figure 11. Sine and Cosine Remaining Offset After a Two-Point Calibration at 20°C and 50°C. 図 11. 20℃および50℃での2 点校正後の正弦および余弦残留オフセット
図 11. 20℃および50℃での2 点校正後の正弦および余弦残留オフセット

2 つの出力項は、「1 点法によるADA4571 の完成時(EOL)校正手順」で述べた出力項簡略化と同様の分析に基づき、次のように簡略化されます。

VSIN = A × sin(2 × α) + OS

VCOS = A × cos(2 × α) + OC

ただし、温度に対するオフセット・ドリフトの補正係数を考慮する必要があります。VSINとVCOS の式の最後に、以下のようにこの補正係数を追加します。:

VSIN = A × sin(2 × α) + OS1 + TCS × (VTEMP_CUR – VTEMP1)

ここで、

OS1 は温度1(T1)における正弦チャンネルのオフセット
VTEMP_CUR はその時点の温度におけるVTEMP 出力電圧
VTEMP1 はT1 におけるVTEMP 出力電圧
TCSは正弦チャンネルの温度係数で、次式で表されます。

数式 03

ここで、

OS2 は温度2(T2)における正弦チャンネルのオフセット
VTEMP2 はT2 におけるVTEMP 出力電圧

VCOS = A × cos(2 × α) + OC1 + TCC × (VTEMP_CURVTEMP1)

ここで、

OC1 はT1 における正弦チャンネルのオフセットTCCは余弦チャンネルの温度係数で、次式で表されます。

数式 04

ここで、

OC2 は温度2 における余弦チャンネルのオフセットです。

以下の理想式を得るには、初期校正時のオフセットとドリフトを最初の式から除く必要があります。

VSIN = A × sin(2 × α)

VCOS = A × cos(2 × α)

2 温度校正のルーチンでは、デバイスのもう1 本のピン(VTEMP ピン)をモニタする必要があります。

2 温度校正の手順

ADA4571 の2 温度校正を正しく行うには、:以下の手順に従ってください。

  1. システムの温度をT1 にして、ステップ2 の間その値を維持します。
  2. デバイスの VSIN 出力とVCOS 出力をモニタしながら、磁気的刺激を両方向に360°回転させます。VTEMP 出力をモニタして、VTEMP1 の温度情報を記録します。
  3. 「ADA4571 の1 温度校正」に示す方法と同じ方法を使用して、VSINのオフセット(OS1)とVCOSのオフセット(OC1)を個別に計算します。
  4. システムの温度をT2 にして、ステップ5 の間その値を維持します。
  5. デバイスのVSIN 出力とVCOS 出力をモニタしながら、磁気的刺激を両方向に360°回転させます。VTEMP 出力をモニタしてVTEMP2の温度情報を記録します。
  6. 「ADA4571 の1 温度校正」に示す方法と同じ方法を使用して、VSINのオフセット(OS2)とVCOSのオフセット(OC2)を個別に計算します。
  7. 次の式を使って、各チャンネルのオフセット温度係数を計算します。

数式 05

最終角度

デバイス動作中のオフセット・ドリフトを補正するには、VTEMP ピン・チャンネルをモニタします。最終的な角度は次式で計算します。

数式 06

ADA4571 の動的校正手順


動的校正が有効なのは、センサーが、電気的回転の全範囲を環境変化よりも早く通過するような自励アプリケーションの場合に限られます。一般にこの条件を満たすには、電気的回転が1Hz を超えている必要があります。軸端型磁石構成の場合、1Hz を超える電気的回転は30rpm のモーター回転数と同等と見なされます。これより低速回転のモーターでも動的校正は可能ですが、動的校正の精度は、システムの温度変化を基準としたモーターの相対的回転速度に左右されます。

動的校正において必要な精度を実現するために必要なのはオフセット補正だけで、この点は1 点校正に似ています。しかし、精度を上げるためにオフセット補正係数は常に更新されます。動的校正を行う場合は、ADA4571 をGC モードで使用することを推奨します。このモードではS/N 比(SNR)が増加し、それによってデバイスの角度誤差が減少するからです。

「1 点法によるADA4571 の完成時(EOL)校正手順」に示す簡易計算式を使用しますが、計算しなければならない要素は2 つだけ、すなわち正弦チャンネルと余弦チャンネルのオフセットです。

VSIN = A × sin(2 × α) + OS

VCOS = A × cos(2 × α) + OC

デバイスが最初に1 回転する間の正弦チャンネルと余弦チャンネルのオフセットは不明なので、1 点EOL 校正法を使用するか、OS = OC = 0 とします。OS = OC = 0 に設定すると、起動時の精度は、その後の機械的回転のオフセットに対して調整が行われるまで、ADA4571 データシートの未補正誤差のセクションと未補正誤差の代表的性能特性で規定された値となります。

最初の1 回転における正弦チャンネルと余弦チャンネルの最大値と最小値は、外部コントローラによって保存する必要があります。これらの値を使って、各チャンネルのオフセットを個別に決定します。オフセット補正を行うには、センサーを、1 回の電気的回転だけではなく、機械的に完全に1回転させることが重要です。単一の双極子磁石を軸端に取り付けた構成設定では、1回の機械的回転により、VSIN出力とVCOS出力の両方について2つの正弦波サイクルが発生します。各サイクルのオフセットはわずかに異なるので、2 つのサイクルにわたって最大値と最小値を取り込むことで各チャンネルの平均オフセットが得られ、最も正確な値を使って動的校正を行うことができます。

軸端型磁石構成におけるAMRの電気的角度と機械的角度の差を図12 に示します。

Figure 12. Magnetic vs. Mechanical Angle for End of Shaft Magnet Configuration. 図 12. 軸端型磁石構成における電気的角度と機械的角度
図 12. 軸端型磁石構成における電気的角度と機械的角度

数式 07

動的校正の精度は、各チャンネルのオフセット計算の精度に依存します。。モーターが1000rpm 以上の高速で回転している時が、動的校正に最も適しています。1000rpm では、電気的サイクルの方が環境の温度変化より1 桁速くなっています。この場合、オフセットの計算に使用する最小値と最大値は、オフセットを正確に計算するために、複数の機械的サイクルから取られました。

最終的な電気的角度の計算では1 点校正の場合と同じ手順を実行しますが、OS とOCは以下のように常に更新されます。

数式 08

著者

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Robert Guyol