
アプリケーション・ノート使用上の注意
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AN-1318: 電流検出アンプ用差動過電圧保護回路
はじめに
ほとんどの電流検出アンプは高い同相電圧(CMV)に対処できますが、高い差動入力電圧には対処できません。ある種のアプリケーションでは、シャントの差動入力電圧がアンプの規定最大電圧を超えるような故障状態が発生することがあります。このような状態はアンプに損傷を与える恐れがあります。このアプリケーション・ノートでは、電流検出アンプ用の2 種類の基本的過電圧保護回路を紹介し、これらの回路が2 種類の電流検出アーキテクチャ、つまり電流検出アンプ(一例としてAD8210 を使用)と差動アンプ(一例としてAD8418 を使用)のデバイス性能に与える影響を検討します。
過電圧保護回路
電流検出アンプの過電圧保護用の基本的接続を図1 に示します。差動入力電圧がアンプの最大定格値を超えると、アンプは内部保護ダイオードに電流を流し始めます。追加直列抵抗R1 とR2は、入力ピン間に大きな差動電圧信号が加わった場合に、内部保護ダイオードに大電流が流れるのを防ぎます。
保護回路によって許容される最大定格電圧と最大入力電流は両方ともデバイスごとに異なります。一般には、内部差動保護ダイオードに流れる電流を3mA に制限します。この値に基づき、式1 を使ってR1 とR2 の値を計算します。
ここで、
VIN_MAX は予想される最大差動電圧、
VRATED_MAXは最大定格電圧(0.7 V)、
R は合計直列抵抗(R1 + R2)です。
たとえば、予想される最大過渡入力電圧が10V の場合、式は次のようになります。
R = 3.1kΩの場合は、式1 に基づきR1 およびR2 は1.55kΩです。これらの R1 およびR2 の値は、アンプの入力インピーダンスによってはかなり大きな値であり、システムの全体的性能に大きな誤差を生じさせる可能性があります。R1 とR2 の値は、誤差を最小限に抑えるためにできるだけ低くします。R1 とR2 の値を小さく抑えるひとつの方法は、図2 に示すように、電流容量の大きい外付け保護ダイオードを入力ピンに追加することです。
たとえば、最大500mA の順方向電流を流すことのできるDigi-Key B0520LW-7-F ショットキー・ダイオードを使用すると、Rの値を20Ω に減らすことができます。
過電圧に対する保護に加えて、図3 に示すようにコンデンサを追加すれば、R1 とR2 を使用して電磁干渉(EMI)フィルタを構成することができます。この構成は、モバイル通信、モーター、送電線などの外部干渉源から回路への高周波干渉を防ぐのに役立ちます。
この種のEMI フィルタ回路では考慮すべき2 種類の帯域幅(差動帯域幅と同相帯域幅)があります。これらの帯域幅は、それぞれ式3 と式4 を使って決定できます。
システム性能に関するトレードオフ
アンプの入力に直列抵抗を追加すると、一部の性能パラメータ値が悪化することがあります。一部のアンプでは、R1 とR2 が内部高精度抵抗と直列になります。その他のアンプでは、オフセット電流と抵抗の作用でオフセット電圧が発生します。その影響を最も受けやすいパラメータが、ゲイン誤差、同相除去比(CMRR)、およびオフセット電圧です。
ゲイン誤差、CMRR、およびオフセット電圧の評価に使用するテスト・セットアップを図4 に示します。このセットアップでは、デバイスへの5V 単電源供給用にAgilent E3631A 電源、差動入力電圧信号用に横河GS200 高精度DC 電源、CMV 設定用にHAMEG HMP4030、電流検出アンプの出力電圧測定用にAgilent 3458A 高精度マルチメータを使用しています。
追加直列抵抗が ゲイン誤差、CMRR、およびオフセット電圧の各デバイス・パラメータに与える影響を測定するために、AD8210 とAD8418 の両方を評価します。
ゲイン誤差
通常、アンプのゲイン誤差はそのデバイスのデータシートで仕様が規定されています。AD8210 の計算による追加ゲイン誤差と実際のゲイン誤差を表1 に示します。
AD8418 は、保護回路がある状態とない状態でテストしました。このアンプの計算による追加ゲイン誤差と実際のゲイン誤差を表2 に示します。
同相除去比
通常、電流検出アンプはCMVが高い環境にさらされるので、CMRR は最も重要な仕様のひとつです。CMRR は、そのデバイスの高CMV除去能力と、それによってどの程度の精度と性能を実現できるかを示す値で、アンプの2 つの入力端子に等しい電圧を加えた場合に出力電圧がどのくらい変化するかを表わします。CMRR は、差動ゲインと同相ゲインの比率として定義され、通常はデシベルで表示されます。
両方のアンプのCMRR 値を求めるには、式5 と式6 を使用します。
ここで、
ADMはAD8210 とAD8418 の差動ゲイン(ADM = 20)、
ACMは同相ゲインΔVOUT/ΔVCM です。
AD8210 とAD8418 電流検出アンプのCMRR の測定結果を、それぞれ表3 と表4 に示します。
結果は、AD8418 では追加外付け抵抗がCMRR 性能に影響を与えますが、AD8210 ではあまり影響がないことを示しています。
R1 (Ω) | R2 (Ω) | Additional Gain Error (%) | Actual Gain (V/V) | Actual Gain Error (%) |
0 | 0 | 0 | 19.9781 | −0.1095 |
10.2 | 10.2 | 0.497 | 19.88059 | −0.59705 |
R1 (Ω) | R2 (Ω) | Additional Gain Error (%) | Actual Gain (V/V) | Actual Gain Error (%) |
0 | 0 | 0 | 19.99815 | −0.00925 |
10.2 | 10.2 | 0.013 | 19.9955 | −0.0225 |
R1 (Ω) | R2 (Ω) | CMV = 0 V and 4 V (dB) | CMV = 4 V and 6 V (dB) | CMV = 4 V and 65 V (dB) | CMV = 6 V and 65 V (dB) |
0 | 0 | −92.77 | −104.96 | −121.49 | −123.35 |
10.2 | 10.2 | −94.37 | −107.99 | −121.86 | −123.10 |
R1 (Ω) | R2 (Ω) | CMV = 0 V and 35 V (dB) | CMV = 35 V and 70 V (dB) | CMV = 0 V and 70 V (dB) |
0 | 0 | −127.72 | −123.72 | −138.39 |
10.2 | 10.2 | −88.89 | −104.35 | −93.05 |
R1 (Ω) | R2 (Ω) | VOUT (mV) | Additional Offset Voltage (RTI) (μV) |
0 | 0 | 5.598 | 17 |
10.2 | 10.2 | 5.938 | 17 |
R1 (Ω) | R2 (Ω) | VOUT (mV) | Additional Offset Voltage (RTI) (mV) |
0 | 0 | −0.91 | 1.3 |
10.2 | 10.2 | 26.09 | 1.3 |
オフセット電圧
外付け抵抗にバイアス電流が流れると、デバイスの内部オフセット電圧と直列に電圧が発生します。この追加的なオフセット電圧を計算するには、式7 に示すように、2 つのバイアス電流の差である入力オフセット電流(IOS)に、入力ピンの外部インピーダンスを掛けます。
ここで、
IOS は入力オフセット電流、
R は追加外部インピーダンスです。
AD8210 およびAD8418 の両方の電流検出アンプの実際の測定値に基づくオフセット電圧の増加量を、それぞれ表5 と表6 に示します。
結果は、AD8418 のオフセット電圧増加量の方が、AD8210 のオフセット電圧増加量より大きいことを示しています。これは、AD8418 の入力オフセット電流が約100μA と非常に大きいためです。入力ピンの追加的なインピーダンスは、入力オフセット電流により追加オフセット電圧として現れます。したがって、オフセット電圧への影響を最小限に抑えるために、AD8418 の直列抵抗には値が小さいものを推奨します。
結論
電流検出アンプを過電圧から保護する最も簡単な方法として、入力ピンに直列抵抗を追加します。この回路では許容入力電圧に十分な余裕を持たせることができますが、追加コンポーネントの分だけコストがかかります。ゲイン誤差、CMRR、オフセット電圧などの性能への影響の大きさは測定可能で、その値は外付け抵抗の合計値と使用する電流検出アンプのタイプに関係します。
ロバスト性に優れたアンプを実現するための過電圧保護の詳細については、アナログ・ダイアログの記事「Robust Amplifiers Provide Integrated Overvoltage Protection(ロバスト性に優れた過電圧保護回路内蔵アンプ)」を参照してください。