リニア回路設計ハンドブック

第1章 オペアンプ

リニア回路設計ハンドブック から

オペアンプの動作

はじめに

オペアンプは、リニア回路設計の基本的なビルディング・ブロックの1つです。その典型的な形態は、2つの入力端子と1つの出力端子で構成され、入力端子の一方は信号の位相を反転し、他方は反転しません。オペアンプの標準的な記号を図1.1に示します。電源端子はオペアンプの動作に必要なことは明らかであるため、この図では省略しています。

図1.1:オペアンプの標準記号

 

「オペアンプ」という名称は、演算アンプの一般的な略称です。この名称は初期のアンプ設計に由来しており、オペアンプはアナログ・コンピュータに使われていました(事実、最初のコンピュータは、本質的にデジタルというよりアナログでした)。ベーシックなアンプをいくつかの外付け部品とともに使うと、数学的なさまざまな「演算」を行うことができました。アナログ・コンピュータが主に使われたのは第二次世界大戦中で、その目的の1つは弾道軌道を計算することでした。

 

電圧帰還型(VFB)モデル

電圧帰還型オペアンプの典型的なモデルには、以下の特性があります。

  1. 入力インピーダンスが無限大
  2. 帯域幅が無限大
  3. ゲインが無限大
  4. 出力インピーダンスがゼロ
  5. 消費電力がゼロ

もちろん、実際はどれも実現不可能です。これらのパラメータをどれだけ理想値に近づけるかで、オペアンプの品質が決まります。

これは電圧帰還型と呼ばれるモデルです。このタイプのオペアンプには、帯域幅が10MHz未満のオペアンプのほぼすべてと、10MHz以上の帯域幅のオペアンプの約90%が含まれます。

図1.2:理想的なオペアンプの特性

 

オペアンプの基本動作

オペアンプの基本動作は簡単にまとめることができます。まず、アンプを固定ゲインにするために、出力信号の一部を反転端子に戻すとします。これが負帰還です。オペアンプの入力端子間に差動電圧が与えられると、アンプのオープンループ・ゲインで乗算されます。

この差動電圧が、反転(-)端子の方で非反転(+)端子より大きくなると、出力はより負側になります。差動電圧が、非反転(+)端子の方で反転(-)端子より大きくなると、出力電圧はより正側になります。アンプのオープンループ・ゲインは、差動電圧を強制的にゼロにしようとします。入力と出力がアンプの動作範囲内にある限り、アンプは差動電圧をゼロに維持し、出力は入力電圧に帰還で設定されたゲインを乗算した値になります。このことから、入力が差動モード入力電圧に対して応答し、コモンモード入力電圧に対しては応答しないことがわかります。

 

反転構成と非反転構成

電圧帰還型オペアンプをアンプとして構成する2つの基本的な方法があります。これらを図1.3と図1.4に示します。

図1.3は、いわゆる反転構成を示しています。この回路を用いると、出力は入力に対して位相が反転します。この回路のゲインは、使われる抵抗の比によって決まり、次式で与えられます。

図1.3:反転モードのオペアンプ

 

図1.4は、いわゆる非反転構成を示しています。この回路を用いると、出力は入力に対して同位相になります。この回路のゲインも、使われる抵抗の比によって決まり、次式で与えられます。
図1.4:非反転モードのオペアンプ段

 

出力が分圧器(ゲイン設定回路)を駆動するため、反転端子に供給される最大電圧が最大出力電圧になることに注意してください。これは最小ゲイン1を示します。

また、反転と非反転のどちらの場合も、帰還は出力から反転端子に行われていることに注意してください。これが負帰還であり、設計者にとって多くの利点があります。これらについては本章で詳しく説明します。

ゲインの基になっているのは抵抗の比であり、実際の抵抗値ではないことにも注意する必要があります。これは、設計者が実際の制限値内で所望の抵抗値を選択できることを意味しています。

抵抗値が低すぎる場合は、オペアンプの出力から大電流を流して動作させる必要があります。これにより、オペアンプ自体で過度の電力が消費され、多くのデメリットが生じます。電力消費の増加はチップの自己発熱を招き、オペアンプ自体のDC特性を変化させる可能性があります。さらに、電力消費によって発生した熱で、ジャンクション温度がほとんどの半導体の一般的な最大許容限度となる150°Cを最終的に超える可能性があります。

このジャンクション温度は、シリコン・チップそのものの温度です。対照的に、抵抗値が高すぎる場合は、ノイズが増加したり寄生容量の影響を受けやすくなったりします。この場合もまた、帯域幅の制限、不安定動作、発振などを生じるおそれがあります。

実際、10Ω以下の抵抗や1MΩを超える抵抗は次第に調達困難になっており、特に高精度の抵抗が求められる場合にこの傾向が顕著です。

図1.5:反転アンプのゲイン

 

反転アンプの例をもう少し詳しく見てみます。図1.5に示すように、非反転端子はグラウンドに接続されています(ここでは、両極性(+と−)電源を想定しています)。オペアンプは、入力間の差動電圧を強制的にゼロにしようとするので、反転入力もグラウンドに接続されているように見えます。実際、このノードは通常「仮想グラウンド」と呼ばれています。

入力抵抗に電圧(Vin)が印加されると、それにより抵抗(Rin)には次式で与えられる電流(I1)が流れます。

オペアンプの入力インピーダンスは無限大なので、反転入力には電流が流れません。したがって、同じ電流(I1)が帰還抵抗(Rfb)を流れなければなりません。アンプは反転端子を強制的にグラウンド電位にするので、出力は次式で与えられる電圧(Vout)と見なすことができます。

簡単な計算を少し行うと、式1.1の結果が得られます。

図1.6:非反転アンプのゲイン

 

今度は、非反転アンプの例を詳しく見てみます。図1.6に示すように、入力電圧が非反転端子に印加されています。出力電圧は、RfbとRinで構成される分圧器を駆動します。技術的には抵抗が入力に接続されていないため、この場合の名称「Rin」はやや誤解を与えます。しかし、この名称は反転構成に適合し、いずれにしても事実上の業界標準となっているため、今後もこの名称を使うこととします。2個の抵抗の接続点である反転端子の電圧(Va)の値は次式のとおりです。
オペアンプの負帰還動作は、差動電圧を強制的に0にしようとします。したがって、次式のようになります。
この場合も、簡単な計算から最終的に次式が得られます。
これは、式1-2で示した式と同じものです。

これまでのすべての説明で、ゲイン設定部品を抵抗としてきました。実際には、これらの部品はインピーダンスで、単なる抵抗ではありません。このため、周波数依存性を持つアンプを構成することができます。このことについては、後のセクションで詳しく説明します。


この資料は「Linear Circuit Design Handbook」としてNewnes / Elsevier社により出版されたもので、2020年10月現在、英語版の電子書籍版が約11,000円で販売されています。

アナログ・デバイセズでは、このハンドブックの日本語版PDFを無償で(登録フォームあり)ダウンロード提供しています。
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