コンバータの接地(あるいは救いの哲学!)

質問:

最近、ADCのデジタル・グラウンド・ピンをシステムのアナログ・グラウンドに接続するようにアドバイスされましたが、信じられません。間違いではありませんか?

RAQ:  Issue 9

回答:

間違いではありません。アナログ(AGND)とデジタル(DGND)のグラウンド接続が別々にあるデータ・コンバータ(ADCDAC)の接続では、これが唯一の安全な方法です。 びっくりされたのは、いわゆる「範疇的誤謬」という哲学的な誤りによるものです。 幸いなことに、電子工学と同様、哲学についても若干の知識がありますので、ちょっと説明させてください。

範疇的誤謬は、私たちが2つの対象の名前が同じであったり、あるいは似ている時など、この2つを同じだとか同じ種類のものだと考えるときに陥ります。。ここでは「デジタル・グラウンド」という名前です。デジタル・グラウンドは、システムのデジタル回路のグラウンド電流を運ぶシステム・グラウンドの一部です。しかし、コンバータのデジタル・グラウンド (DGND)は、コンバータのデジタル回路からの電源電流と、そのデジタル・インターフェースからのリターン電流を流すピンです。

この2つは別物です。コンバータのDGNDピンの最適な接続先は、AGNDピン(つまり、同じICパッケージ上の、まったく同じ電位)への接続です。これによって、チップ内の2つのグラウンド間の容量性クロストークが最小になり、その結果、コンバータ出力のロジック関連のノイズも最小限に抑えられます。もちろん、可能ならば、コンバータICでは内部アナログ/デジタル・グラウンド共通のピン1つにすることが望ましいのですが、デジタル・グラウンド電流がピン・インピーダンスに流れて電圧降下が生じるために多くの場合はできません。このため、AGNDピンとDGNDピンを分離することが重要になります。

ただし、この接続はパッケージ上[1] のみにしてください。 以前 にもデータシートは理想的なものとは言い難いと申し上げましたが、コンバータのデータシートで AGND and DGNDをそれぞれシステムのアナログとデジタル・グラウンドに接続するように推奨しているものがあります。データシートにそう書いてあったら、これは間違いですから無視してください。[2]

さらに、システムのアナログ・グラウンドとデジタル・グラウンドのスター結線をデータ・コンバータ上に置くことはあまりお勧めできません。スター結線は電源の近くに配置してください。グラウンド・インピーダンスが十分に低い場合は、この配置によってコンバータのデジタル・インターフェースのノイズ耐性が若干低下しますが、これは大した問題ではありません。むしろ、これによってシステムのアナログ部のノイズ性能が大幅に改善されるということのほうがずっと重要です。

 

 

[1]インピーダンスは可能な限り小さくしてください。抵抗、インダクタ、フェライト・ビーズでAGNDとDGNDを分離しないでください。

 

[2] このルールには唯一の例外があります。詳細はページ下部、その他関連情報に掲載している「Grounding ADCs (英語、ppt)」をご覧ください。

著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。